営業プロセス監査は、月に1回、担当者ごとに数件の案件を抜き出し、反響から契約後までの各段階で「決めた手順が行われたか」と「法令上の手続きが済んでいるか」を同じ表で確かめる点検です。成約の件数だけを見ると、物件や時期の影響が混ざって原因が分かりません。この記事では、中小の不動産会社が月30分ほどで回せる点検の項目、進め方、計算の仕方を、宅建業法34条・34条の2・35条・37条・49条、同法施行規則16条の11、特定電子メール法とあわせて整理します。
営業プロセス監査で見るもの
営業の成果は、担当者の工夫だけでなく、物件の条件、時期、反響の量にも左右されます。成約の件数だけで担当者を比べると、何を直せばよいかが分かりません。そこで、営業の流れを段階に分け、段階ごとに「やると決めた手順」を書き出し、実際の案件でそれが行われたかを確かめます。これが営業プロセス監査です。監査という言葉が重く感じられる場合は、月次点検と呼んでもかまいません。
点検で見るものは2種類あります。
- 社内で決めた手順:返信の早さ、ヒアリングの項目、提案書の型、内見後の連絡など。会社ごとに決めるもので、正解は1つではありません。
- 法令上の手続き:取引態様の明示、媒介契約の書面、重要事項説明、契約書面、帳簿の記載など。守らなければならないものです。
前者は改善のため、後者は事故を防ぐために見ます。同じ表で一緒に見ると、点検の時間を1回で済ませられます。
段階ごとの点検項目
点検項目の例を、段階ごとに示します。項目は多すぎると続かないため、最初は各段階2〜3項目から始め、点検を重ねながら見直します。
反響と最初の対応
- 問合せを受けてから最初の返信までの時間を記録しているか
- 最初の連絡で、会社名と氏名、用件を名乗っているか
- 取引態様(媒介か、代理か、当事者か)を伝えているか
返信の早さの決め方は反響への返信時間の決め方で整理しています。
ヒアリング
- 決めた項目(条件、事情、決める人、期限、連絡してよい時間帯)を聞いて記録しているか
- 聞いた内容を要約してお客様に確かめているか
提案と内見
- 提案書に「気をつける点」が書かれているか
- 候補の募集状況を、提案や内見の前に確かめているか
- 内見の後、次に連絡する日を決めて記録しているか
申込みから契約
- 重要事項説明を、契約が成立するまでの間に宅地建物取引士が行い、書面を交付しているか
- 契約が成立した後、契約内容を記載した書面を交付しているか
- 判断の時間を与えないような言い方や、即決を迫る連絡をしていないか
契約の後
- 帳簿に取引の内容を記載しているか
- 入居や引渡しの後の連絡を、決めた時期に行っているか
- 案内メールを送る場合、送ってよい相手かどうかを確かめているか
法令上の確認事項
点検項目のうち、法令で決まっているものを条文と対応させておくと、なぜその項目を見るのかを担当者に説明できます。
| 確認すること | 根拠 | 点検で見る記録 |
|---|---|---|
| 広告をするとき、注文を受けたときに、取引態様の別を明らかにしているか | 宅建業法34条1項・2項 | 広告の控え、最初の連絡の記録 |
| 売買・交換の媒介契約を結んだとき、遅滞なく書面を作り、記名押印して依頼者に交付しているか | 同法34条の2第1項 | 媒介契約書の控え |
| 専任媒介契約の有効期間が3か月を超えていないか | 同条3項 | 媒介契約書の期間欄 |
| 申込みがあったとき、遅滞なく依頼者に報告しているか | 同条8項 | 依頼者への報告の記録 |
| 専任媒介は2週間に1回以上、専属専任媒介は1週間に1回以上、業務の処理状況を報告しているか | 同条9項 | 報告の日付 |
| 契約が成立するまでの間に、宅建士が重要事項を記載した書面を交付して説明しているか。説明の際に宅建士証を提示しているか | 同法35条1項・4項 | 重要事項説明書の控え、説明日 |
| 契約が成立したとき、定められた事項を記載した書面を交付しているか | 同法37条1項・2項 | 契約書面の控え、交付日 |
| 事務所ごとに帳簿を備え、取引のつど記載しているか | 同法49条 | 帳簿 |
| 勧誘の前に商号・氏名・目的を告げているか。断られた後に勧誘を続けていないか。迷惑な時間の電話や訪問をしていないか | 同法施行規則16条の11第1号ハ・ニ・ホ | 連絡の履歴(日時と内容) |
| 広告や宣伝のメールを、同意を得た相手などにだけ送っているか。送信者の名称と、送信停止の連絡先を表示しているか | 特定電子メール法3条・4条 | 同意の記録、送ったメールの文面 |
特定電子メール法3条は、広告や宣伝のための電子メールを、あらかじめ送信に同意した人などに限って送ることを求め、同意を証する記録の保存(2項)と、送信をしないよう求められたときは送らないこと(3項)を定めています。4条は、送信者の氏名または名称と、送信停止の通知を受けるための電子メールアドレスなどを表示することを求めています。契約後の案内メールに物件の紹介を載せる場合などは、この点も点検の対象にします。
媒介契約は、ここでは売買・交換の媒介についての定めです。賃貸の仲介だけを扱う会社は、該当する行だけを点検表に入れます。
月1回の進め方
進め方の例を示します。筆者が考える手順の例で、効果を数字で示すものではありません。
案件の選び方
担当者ごとに、前月に動きのあった案件から数件を選びます。成約した案件だけを選ぶと、うまくいかなかった段階が見えません。成約した案件、途中で止まった案件、失注した案件を混ぜ、選ぶ人の好みが入らないよう、一覧の順番で何件目と決めておくなどの方法で選びます。
時間と形
1人30分ほどを目安に、上司と担当者の1対1で行います。全員の前で行うと、指摘が責める場になりやすいためです。点検する人は、事前に案件の記録を読み、点検表に付けておきます。当日は付けた結果を一緒に見て、記録が残っていないだけなのか、実際に行っていないのかを確かめます。
改善は1つに絞る
点検で見つかったことを全部直そうとすると、翌月には元に戻りがちです。法令上の手続きの漏れはすぐに直したうえで、社内の手順については、次の月に取り組むことを1つだけ決めます。翌月の点検では、まずその1つができたかを確かめます。
点検の結果を研修につなげる
複数の担当者で同じ項目が「できていない」となる場合は、個人の問題ではなく、手順の決め方や教え方の問題である可能性があります。たとえば、ヒアリングの項目を聞けていない担当者が多いなら、項目が多すぎるか、聞き方を練習する機会がないのかもしれません。そうした項目は、次の研修や朝の短い打ち合わせの題材にします。
反対に、全員ができている項目は点検表から外し、空いた分で新しく決めた手順を確かめます。点検表と研修の内容を同じ項目でそろえておくと、教えたことが現場でできているかを、そのまま確かめられます。
段階ごとの数字の見方と計算例
点検とあわせて、段階ごとの件数を見ると、どの段階で案件が止まりやすいかが分かります。仮の数字で計算例を示します。
| 段階 | 件数(仮) | 次の段階に進んだ割合 |
|---|---|---|
| 反響 | 40件 | 16÷40=40% |
| 来店・内見 | 16件 | 6÷16=37.5% |
| 申込み | 6件 | 5÷6=約83% |
| 契約 | 5件 | - |
- 段階ごとの移行率=次の段階に進んだ件数÷その段階の件数
- 反響から契約までの割合=5÷40=12.5%
この例では、反響から来店・内見に進む割合と、内見から申込みに進む割合が低く見えます。ただし、件数が少ないと1件の違いで割合が大きく動きます。申込みが6件から5件に減るだけで、内見から申込みへの割合は37.5%から約31%に下がります。1か月の数字だけで判断せず、数か月分を並べて見ること、割合と一緒に件数を書くことを決まりにします。
割合が低い段階が見つかったら、その段階の点検項目を重点的に見ます。数字は「どこを点検するか」を決めるために使い、担当者を評価するための数字にはしません。段階ごとの件数の集め方は営業パイプラインの段階管理、チーム全体の指標の並べ方は営業チームの指標の見える化でも整理しています。
点検表の例
1件につき1枚の点検表を使います。結果は「できている」「一部できている」「できていない」「記録がない」の4つで付けます。「記録がない」を分けておくと、実際に行っていないのか、行ったが残していないのかを区別できます。
| 段階 | 点検すること | 結果 | メモ |
|---|---|---|---|
| 反響 | 最初の返信までの時間を記録している | ||
| 反響 | 会社名・氏名・用件と取引態様を伝えている | ||
| ヒアリング | 決めた項目を聞いて記録している | ||
| 提案 | 提案書に気をつける点が書かれている | ||
| 内見 | 次に連絡する日を決めて記録している | ||
| 契約 | 重要事項説明を契約成立前に宅建士が書面を交付して行っている | ||
| 契約 | 契約書面を交付している | ||
| 契約後 | 帳簿に記載している | ||
| 全体 | 断られた後の勧誘、迷惑な時間の連絡がない |
点検表は、記録が残っていることを前提にしています。対応の履歴を残す場所が決まっていないと、点検のたびに担当者の記憶に頼ることになります。表計算ソフトでも始められます。ウルスタくんでは、顧客管理に対応の履歴を残し、重要事項説明書や賃貸借契約書などの書類と電子サインの記録もあわせて管理できます。どの道具を使う場合も、点検で見る項目を記録の入力欄と一致させておくと、点検の準備が短く済みます。
続けるための決めごと
点検は続けることで意味が出ます。続けるための決めごとの例です。
- 日を固定する:毎月の最終週の決まった曜日など。予定が入ったら別の日に移し、取りやめにしない。
- 週に1回は短く案件を共有する:止まっている案件を早めに見つけるため。点検とは分けて行う。
- 四半期に1回は点検項目を見直す:全員ができている項目は外し、新しい課題を入れる。法令の改正があれば反映する。
- 結果を残す:点検表と、決めた改善の1つを記録し、翌月の最初に見る。
担当者が少ない会社では、代表者が点検する側になることが多いはずです。代表者自身の案件も、別の人に点検してもらうか、時間を置いて自分で点検します。
点検で避けること
点検の目的は手順を良くすることで、担当者を責めることではありません。次のことは避けます。
- 点検の結果を、その場で人事評価に結びつけること:記録を正直に残さなくなり、点検そのものが成り立たなくなります。
- 件数の目標だけを強く求めること:申込みの件数だけを追うと、即決を迫る、断られた後も連絡を続けるといった、宅建業法施行規則16条の11が禁じる勧誘につながるおそれがあります。
- お客様の情報を必要以上に持ち出すこと:点検に使う記録は社内で見る範囲にとどめます。宅建業法45条は、業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁じています。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. ロールプレイの研修だけではいけませんか。
ロールプレイは場面を決めて練習するのに向いています。一方、実際の案件で手順が行われたかは、記録を見ないと分かりません。研修で練習し、点検で実際にできているかを確かめる、という組み合わせが考えられます。研修の組み立ては営業の提案スキルを育てる研修の作り方で整理しています。
Q2. 担当者が1人か2人の会社でも必要ですか。
人数が少ないほど、1人の漏れが会社全体の事故につながります。法令上の手続きの行だけでも、月に1回確かめる価値があります。
Q3. 点検で法令上の漏れが見つかったらどうしますか。
お客様への書面の交付や報告が済んでいないなど、すぐに対応できるものは直ちに対応します。対応の方法に迷う場合は、免許を受けた行政庁の窓口や顧問の専門家に相談します。そのうえで、同じ漏れが起きない手順に直します。
Q4. 点検の結果は誰が見られるようにしますか。
本人と点検した上司が見られれば足ります。会社全体で共有するのは、個人が特定されない形にまとめた傾向(どの段階の漏れが多いか)にとどめます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条・第34条の2・第35条・第37条・第45条・第49条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11)
- e-Gov法令検索「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(第3条・第4条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。