不動産会社の業務改善 読了 14分

マネージャー育成|KPIで部下をコーチする面談の4段階と、パワハラにならない指導・労働時間の線引き

KPIを使ったマネージャー育成は、数字を評価ではなく行動を決める材料に使い、面談を事実→原因の仮説→次の行動→次回の確認の順で進めます。指標の選び方、仮の会話例、パワハラ防止の指針や労働時間の上限など、指導の線引きも説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
マネージャー育成|KPIで部下をコーチする面談の4段階と、パワハラにならない指導の線引き
目次

KPIを使ったマネージャー育成は、数字を評価の道具ではなく行動を一緒に決める材料として使い、面談を「事実の確認→原因の仮説→次の行動→次回の確認」の順で進めると、指導が感覚論やパワーハラスメントに寄りにくくなります。あわせて、労働施策総合推進法31条(2026年9月30日までは30条の2)と厚生労働省の指針、労働基準法・労働安全衛生法の労働時間と健康確保のルールを、指導の線引きとして押さえておきます。この記事では、営業所長や管理部門のリーダーを育てる立場の方に向けて、面談の進め方、使う指標の選び方、仮の会話例、法令上の注意を説明します。

マネージャーに任せる役割を先に決める

中小の不動産会社では、成績のよい営業担当者をそのまま営業所長やチームリーダーにすることがよくあります。本人は自分で契約を取る力はあっても、部下の数字を見て行動を一緒に決める経験はありません。育成の最初の一歩は、マネージャーに何を任せ、何を任せないかを言葉にすることです。

任せること(例)任せないこと・確認が必要なこと(例)
週次で部下のKPIを確認し、面談で次の行動を決める給与・賞与の最終決定
反響の割り振り、内見の段取りの調整報酬額の上限を超える請求や、例外的な値引きの判断
新人への業務手順の指導懲戒や配置転換の判断

宅地建物取引業法31条の2は、宅地建物取引業者に、従業者が業務を適正に実施するために必要な教育を行うよう努めることを求めています。部下の指導を任せるマネージャーは、この教育を現場で担う人です。会社としては、マネージャー本人への教育も同じ位置づけで考えます。

「所長」にしても労働時間の規制が外れるとは限らない

労働基準法41条2号は、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には労働時間・休憩・休日の規定を適用しないとしています。ただし、厚生労働省(大阪労働局)の解説は、管理監督者に当たるかどうかは名称にとらわれず実態に即して判断すべきものとし、職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金などの待遇を見るとしています。肩書きを与えただけで残業代が不要になるわけではありません。マネージャーの処遇を決めるときは、この点を先に確認します。

コーチングに使う指標の選び方

面談で使う指標は、部下が自分の行動で動かせるものを中心にします。動かせない数字で責めても、行動は変わりません。

区分指標の例面談での使い方
本人が動かせる反響から初回連絡までの時間、内見から申込までの率、追客の予定を入れた顧客の割合次の行動を決める材料にする
一部だけ動かせる内見数、契約数手前の段階のどこで止まっているかを一緒に分解する
本人では動かせない担当エリアの反響数、扱える物件の数評価には使わず、前提条件として共有する

段階ごとの件数と転換率の出し方は、不動産営業のKPI設計で説明しています。面談の前に、マネージャーと部下が同じ数字を見られる状態にしておくことが前提です。

管理部門のマネージャーなら、入居者からの問い合わせへの初回対応までの日数、更新の案内を出した時期、滞納の初回連絡までの日数など、同じく本人が動かせる工程の指標を選びます。

面談の4段階の進め方

面談は月1回、1人30分程度を目安に、次の4段階で進めます。時間は会社の事情に合わせて調整してください。大切なのは順番です。

段階1:事実を一緒に確認する

最初に、先月の数字を一緒に見ます。マネージャーが評価を言う前に、部下に「この数字を見てどう思うか」を聞きます。ここでは良い悪いを判断せず、どの段階の数字が前の月と違うかだけを確認します。

段階2:原因の仮説を立てる

数字が動いた段階について、「何が起きていたか」を聞きます。問いの向きは人ではなく工程に向けます。「なぜできなかったのか」ではなく、「その週は内見の日程がどこで詰まっていたか」と聞くと、答えが具体的になります。原因は1つに決めつけず、2〜3個の仮説を出してもらいます。

段階3:次の行動を本人が決める

仮説の中から、次の1か月で試すことを1〜2個に絞ります。行動は「頑張る」ではなく、「内見の当日中に、次の連絡の日時を顧客と決める」のように、やったかどうかが分かる形にします。期限と、どの数字で確かめるかもその場で決めます。マネージャーが答えを言いたくなっても、まず本人の案を聞きます。

段階4:次回の面談で確認する

次の面談の最初に、前回決めた行動をやったかどうか、数字がどう動いたかを確認します。やれなかった場合は、責める前に「やれなかった理由」を聞き、行動の大きさや時期を決め直します。確認する仕組みがないと、面談は毎回その場の話で終わります。

面談の記録は、日付、確認した数字、仮説、決めた行動、期限の5項目を1枚に残します。記録は本人も見られるようにしておくと、言った・言わないの行き違いが減ります。

仮の会話例

次の会話と数字はすべて説明のための仮のもので、実在の会社や社員の記録ではありません。営業担当Aさんの内見から申込までの率が、直近3か月で下がっている場面です。

仮の数字で計算例を示します。Aさんの直近3か月は、内見40件に対して申込12件で、申込率は12件÷40件=30%でした。その前の3か月は、内見36件に対して申込14件で、14件÷36件=38.9%でした。

段階マネージャーの問い(例)ねらい
事実「内見の件数は増えているけれど、申込の率は30%くらいになっている。Aさんはこの数字をどう見ていますか」評価を言う前に、本人の見方を聞く
仮説「申込に進まなかった28件で、内見の後の流れに共通点はありましたか」人ではなく工程に問いを向ける
行動「その中で、来月試せそうなことを1つ選ぶとしたら何ですか。いつまでに、どの数字で確かめますか」本人が決め、確かめ方まで決める
確認「前回決めた、内見の日に次の連絡日を決める件はどうでしたか」決めたことを次回の面談につなぐ

このとき、申込率を上げるために、内見当日に申込を強く迫るような行動を選ばないよう、マネージャーが目を配ります。宅地建物取引業法47条の2と同法施行規則16条の11第1号は、契約するかどうかを判断するために必要な時間を正当な理由なく与えないことや、断った相手への勧誘の継続などを禁じています。行動の案がこれに近づいたら、別の案を一緒に考えます。

パワーハラスメントにならない指導の線引き

事業主に求められている措置

労働施策総合推進法31条1項は、事業主に、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するための体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることを求めています。同条2項は、相談したことや調査に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。この規定は、令和7年法律第63号による改正法が施行された2026年10月1日より前は、30条の2でした。

厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、事業主が講ずべき措置として、方針等の明確化とその周知・啓発、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などを挙げています。マネージャーを育てる会社は、マネージャーが加害者にならないための教育と、マネージャー自身が相談できる窓口の両方を用意します。

指導とパワーハラスメントの境目

指針は、職場におけるパワーハラスメントを、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの、としています。そのうえで、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントに該当しないとしています。数字を示して改善を求めること自体は、指導の範囲です。

指針が該当すると考えられる例として挙げているもののうち、数字を使った指導で起きやすいものは次のとおりです。

  • 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと(精神的な攻撃)
  • 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと(精神的な攻撃)
  • 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること(過大な要求)

面談の4段階は、この境目を守るための型でもあります。数字は本人と1対1で確認し、全員の前で個人の数字を責めない。目標は教育の状況と過去の実績を踏まえて決める。原因は工程に問い、人格に向けない。こうした約束を、マネージャーと事前に共有しておきます。

労働時間と健康確保のルール

KPIの未達を残業で埋める運用は、数字が戻っても長く続きません。法令上も、次の上限があります。

  • 労働基準法32条:休憩時間を除き1週40時間、1日8時間が上限です。
  • 労働基準法36条:時間外労働をさせるには36協定の締結と届出が必要です。延長の限度は原則として1か月45時間、1年360時間です(4項)。時間外労働と休日労働の合計は1か月100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内でなければなりません(6項)。
  • 労働基準法37条:時間外労働には割増賃金がかかり、1か月60時間を超えた部分は5割以上の率です。

労働安全衛生法66条の8の3は、事業者に労働者の労働時間の状況の把握を求めています。対象から外れるのは高度プロフェッショナル制度の対象者で、管理監督者は外れません。マネージャー本人の労働時間も把握の対象です。

また、同法66条の8と労働安全衛生規則52条の2・52条の3により、休憩時間を除き1週40時間を超えて労働させた時間が1か月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行う必要があります。面談で部下の様子に疲れが見えたら、数字の話より先に労働時間を確認します。

始め方の手順

  1. マネージャーに任せる役割と、任せない判断を一覧にする。
  2. 面談で使う指標を、本人が動かせるものを中心に3〜5個選ぶ。
  3. 指標の定義と、記録する場所を決める(顧客の段階と日付が分かる一覧があれば足ります)。
  4. 面談の記録シート(日付、数字、仮説、行動、期限)を用意する。
  5. パワーハラスメント防止の方針と相談窓口を、マネージャーと部下の両方に周知する。
  6. 最初の3か月は、経営者がマネージャーの面談に同席するか、面談の記録を読んで、問いの立て方を一緒に振り返る。

指標の元になる顧客ごとの段階と日付は、ウルスタくんの顧客管理のような一覧に残しておくと、面談の前に数字をそろえる手間が減ります。歩合給など処遇の設計とつなげるときの注意は歩合給・インセンティブ設計で説明しています。

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 面談で部下が黙ってしまい、仮説が出てきません。

問いが大きすぎることが多いです。「なぜ申込が減ったと思うか」ではなく、「申込に進まなかった顧客を1人思い出すと、内見の後に何がありましたか」のように、具体的な1件から聞くと答えやすくなります。

Q2. 目標未達が続く部下に、強く言う必要はありませんか?

改善を求めること自体は指導の範囲です。厚生労働省の指針も、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワーハラスメントに該当しないとしています。ただし、長時間の叱責の繰り返しや、人前での威圧的な叱責は該当すると考えられる例に挙がっています。伝える内容は強くても、方法は1対1で、事実と行動に絞ります。

Q3. 営業所長を管理監督者として扱っています。残業代は不要ですか?

管理監督者に当たるかどうかは、肩書きではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇などの実態で判断されます。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

Q4. マネージャー自身が上司から過大な数字を求められている場合はどうすればよいですか?

マネージャーも労働施策総合推進法31条で守られる労働者です。会社は、マネージャーが相談できる窓口も用意しておく必要があります。経営者は、マネージャーに課す目標が部下への過大な要求に連鎖していないかも確認します。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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