管理会社のオーナー提案を仕組みにするには、賃貸住宅管理業法が求める「契約前の重要事項説明(13条)」と「定期報告(20条)」をオーナーとの決まった接点として使い、そこに次の提案をのせる形がつくりやすい方法です。売却や買い替えなど宅建業にかかわる提案では、宅建業法47条の2の「断定的判断の提供」の禁止に気をつけます。この記事では、年間の流れ、提案書の型、聞き取りの項目、守るべきルールを整理します。
提案が担当者まかせになる理由
管理会社からオーナーへの提案には、家賃の見直し、設備の交換、修繕、募集条件の変更、売却や買い替えの相談などがあります。多くの会社で、提案するかどうか、いつ、何を出すかが担当者の経験に任されています。
担当者まかせになると、次のようなことが起きます。
- 提案する担当者としない担当者で、オーナーの受けるサービスに差が出る
- 提案の根拠(数字の出どころ)が人によってばらばらになる
- 担当者が辞めると、オーナーごとの事情や過去の提案の経緯が分からなくなる
仕組みにするとは、「いつ」「何を材料に」「どの型で」「誰が確認して」出すかを決めておくことです。その出発点として使いやすいのが、法律で決まっているオーナーとの接点です。
法律が定めるオーナーとの接点
契約前の重要事項説明(賃貸住宅管理業法13条)
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を結ぼうとするときは、契約を結ぶまでに、契約の内容と履行に関する事項について、書面を交付してオーナーに説明しなければなりません(13条1項)。オーナーの承諾を得れば、書面に代えて電磁的方法で提供できます(13条2項)。
説明する事項は施行規則31条に並んでいます。
| 施行規則31条の主な事項 | 提案の仕組みとの関係 |
|---|---|
| 管理業務の内容及び実施方法 | どの業務の中で提案を行うかを決めておく |
| 報酬の額並びにその支払の時期及び方法 | 提案が報酬に含まれるのか、別料金かを明確にする |
| 報酬に含まれていない管理業務に関する費用であって、通常必要とするもの | 修繕などの提案で発生する費用の扱いを先に共有する |
| 管理業務の一部の再委託に関する事項 | 提案の実施を協力業者に委託する場合の扱い |
| 法20条の規定による委託者への報告に関する事項 | 定期報告の時期と方法を決め、提案の場として使う |
| 契約期間、更新及び解除に関する事項 | 契約更新の前を見直しの提案の時期にする |
契約前の説明で「定期報告の時期と方法」「提案のときに発生する費用の扱い」をはっきりさせておくと、その後の提案が「売り込み」ではなく、契約で決めた業務の一部として受け取られやすくなります。
定期報告(賃貸住宅管理業法20条・施行規則40条)
20条は、管理業務の実施状況などについて、定期的に委託者(オーナー)に報告することを求めています。施行規則40条によると、報告は管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと、及び契約期間の満了後遅滞なく行い、次の事項を記載した管理業務報告書を作成し、オーナーに交付して説明します。
- 報告の対象となる期間
- 管理業務の実施状況
- 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況
国土交通省の賃貸住宅標準管理受託契約書でも、15条で、合意した期日と頻度に基づき定期にオーナーへ管理業務に関する報告をすると定めています。法律の下限は1年を超えない期間ごとですが、契約で頻度を上げることもできます。
この定期報告は、オーナーと話す機会が年1回以上は確保される場面です。報告書の最後に「次の期間に検討してほしいこと」の欄をつくるだけでも、提案が報告の流れの中に組み込まれます。
提案の年間の流れ
提案のきっかけを、オーナーとの決まった接点や物件の出来事に結びつけておくと、担当者が忘れにくくなります。次は手順の例です。
| きっかけ | 根拠・材料 | 提案の例 |
|---|---|---|
| 定期報告 | 管理業法20条・施行規則40条の管理業務報告書 | 苦情の傾向から設備の更新、共用部の改善を提案 |
| 管理受託契約の更新前 | 契約期間と更新の定め(施行規則31条) | 管理業務の範囲や報告の頻度の見直し |
| 入居者の退去 | 退去立会いの記録、原状回復の見積もり | 原状回復とあわせた設備交換、募集条件の見直し |
| 賃貸借契約の更新 | 更新が近い契約の一覧 | 更新条件の確認、長く住んでいる入居者への対応 |
| 一定額を超える修繕 | 標準管理受託契約書6条(頭書の金額を超える修繕は事前協議) | 複数の選択肢と費用の比較 |
「更新が近い契約」「退去予定」などの一覧を毎月見る仕組みがあると、提案のきっかけを取りこぼしにくくなります。ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)、顧客管理を1か所で扱えるので、提案の材料をそろえる作業に使えます。
提案書の型
提案書の形を決めておくと、作る時間が読みやすくなり、上長が確認する点もはっきりします。次の5つの欄を基本にします。
- 現状:報告書や記録の数字(空室の期間、苦情の件数、修繕の履歴など)と、オーナーから聞いている意向
- 課題:現状から見える問題を短く書く。数は絞る
- 選択肢:何もしない場合も含めて、複数の案を並べる
- 費用と前提:それぞれの案の費用、見込みの根拠、前提条件、リスク
- 決めてほしいこと:オーナーに判断してほしい点と期限
仮の数字で計算例を示します。家賃6万円の部屋が3か月空いた場合、入らなかった家賃は6万円 × 3か月 = 18万円です。設備交換に一定の費用がかかる案と、何もしない案を並べ、それぞれの前提(募集期間の見込みなど)を書きます。見込みは見込みとして書き、「これで埋まります」と言い切る書き方はしません。
根拠に使う数字は、自社の記録か、出典の分かる資料に限ります。周辺の家賃相場などを使う場合は、どこから取ったか、いつの数字かを書き添えます。
オーナーへの聞き取り
提案がずれる原因の多くは、オーナーの目的を知らないまま案をつくることです。契約時と定期報告のときに、次の点を聞いて記録しておきます。
- 物件を持っている目的(収入、資産の保全、相続の準備など)
- 修繕や設備にかけられる予算の考え方
- 空室と家賃のどちらを優先するか
- 将来、売却や建て替えを考えているか
- 連絡の方法と、判断に家族などがかかわるか
聞いた内容は担当者のメモで終わらせず、顧客情報として社内で共有できる場所に残します。担当が替わっても、提案の前提が引き継がれます。
提案で守るルール
宅建業法47条の2:断定的判断の提供などの禁止
売却や買い替え、購入の提案は、宅地建物取引業にかかわる契約の勧誘になることがあります。宅建業法47条の2は次のことを禁じています。
- 1項:契約の締結の勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供すること
- 2項:契約を締結させ、または申込みの撤回・解除を妨げるため、相手方を威迫すること
- 3項:そのほか省令で定める行為。施行規則16条の11第1号では、将来の環境や交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断の提供、迷惑を覚えさせるような時間の電話・訪問、深夜や長時間の勧誘などが挙げられています
「今売れば確実に利益が出ます」「この地域はこれから確実に便利になります」といった言い方は避け、見込みは根拠と前提を添えて示します。
サブリースの提案:管理業法28条・29条
特定賃貸借契約(いわゆるサブリース)の提案では、管理業法28条が家賃、維持保全の実施方法、契約の解除などについて、著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示を禁じています。29条は、勧誘に際して重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為などを禁じています。
修繕の提案:管理受託契約の定め
標準管理受託契約書6条2項では、1件あたりの金額が頭書で定めた金額を超える修繕は、あらかじめオーナーと協議することになっています。提案の段階で費用の見積もりと選択肢を示し、オーナーの判断を記録に残します。
社内で回すための手順
- 接点を予定に入れる:契約ごとに定期報告の時期と契約更新の時期を予定に入れ、提案の準備期間も一緒に押さえます。
- 材料を決める:提案に使う記録(報告書、苦情の記録、修繕の履歴、入出金の記録)と、外部資料の出典を決めます。
- 型を使う:上の5つの欄の提案書を使い、例外は上長が判断します。
- 確認してから出す:法令に触れる言い方がないか、根拠の数字の出典があるかを、出す前に別の人が確認します。
- 結果を残す:オーナーが採用した案、採用しなかった案と理由を記録し、次の提案に生かします。
提案の記録に残す項目
提案を「仕組み」として続けるには、出した提案の記録を同じ形で残すことが欠かせません。次は記録の項目の例です。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| きっかけ | 定期報告、契約更新、退去、修繕など、どの接点で出したか |
| 材料 | 使った記録や外部資料の名前と時点 |
| 選択肢 | 示した案と、それぞれの費用・前提 |
| オーナーの判断 | 採用した案、見送った案と理由、判断した日 |
| 次の確認時期 | 見送った案をいつ見直すか |
見送った提案にも理由があります。理由を残しておけば、次の定期報告で同じ提案を繰り返さずにすみ、状況が変わったときに改めて出す判断もしやすくなります。記録の形をそろえておくと、担当が替わっても、オーナーとの話を途中から引き継げます。
筆者は宅地建物取引士で、自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を自主管理しています。オーナーの立場から見ても、報告と提案が決まった時期に、決まった形で届くほうが判断しやすいと感じています。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 定期報告はどのくらいの頻度で行えばよいですか。
賃貸住宅管理業法の施行規則40条では、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと、及び契約期間の満了後遅滞なく報告することになっています。これが下限で、契約でそれより短い頻度を決めることもできます。
Q2. 定期報告の書面には何を書けばよいですか。
施行規則40条は、報告の対象となる期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況及び対応状況を記載事項にしています。これに加えて、次の期間に検討してほしい事項を書く欄を設けると、提案につなげやすくなります。
Q3. 売却の提案をするときに気をつけることは何ですか。
宅建業法47条の2により、利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を示すことは禁止されています。価格の見込みは根拠と前提を添え、媒介契約を結ぶ場合は34条の2の媒介契約書で報酬などを書面にします。
Q4. 提案の仕組みづくりは何から始めればよいですか。
まず、全オーナーの定期報告の時期と契約更新の時期を一覧にします。次に、報告書の最後に提案の欄を設けます。この2つは、新しい道具を入れなくても始められます。
Q5. 定期報告や契約前の説明は、紙でなく電子で行えますか。
契約前の重要事項説明の書面は、オーナーの承諾を得て電磁的方法で提供できます(管理業法13条2項)。定期報告の管理業務報告書も、施行規則40条2項以下で、委託者の承諾を得たうえで電磁的方法により提供する手続きが定められています。承諾の取り方と記録の残し方を、社内で決めておきます。
関連記事:家賃査定からオーナー提案へ、オーナーへの月次報告、提案書テンプレートの標準化、重要事項説明書のテンプレート
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(13条・20条・28条・29条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(31条・40条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(34条の2・47条の2)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(16条の11)
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。