不動産会社の業務改善 読了 37分

業者間流通 入居申込 オンライン化 2026|FAX申込を電子化する90日の実装手順・中小不動産

業者間流通BB経由の入居申込をFAXから電子化する実装手順を、90日(Phase 1〜3)に分けて整理する。IT専任者がいない中小仲介でも実行できる簡易導入パスも提示する。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
業者間流通 入居申込 オンライン化 2026 | ウルスタくん
目次

本記事の事例について:本記事に登場する会社の事例は、実在の企業を特定できる形では記載していません。地域・規模・導入システム・金額には、説明のための想定を含みます。他社サービスの料金・仕様は改定されますので、導入の可否は必ず各社の公式情報とお見積りでご確認ください。

最終更新 | 著者: 馬場生悦 (宅建士)

1. 不動産業務におけるなぜ FAX 申込が時代遅れになったのか

2020 年代前半まで、賃貸入居申込は FAX が業界標準だった。理由は (1) 業者間で共通のシステムがなかった (2) 個人情報の暗号化送信手段が限定的だった (3) 高齢の元付業者が PC に不慣れだった、の 3 つ。

これが 2024 年頃から崩れた。理由は (1) 業者間流通 BB 各社が申込フォーム機能を強化、(2) 個人情報保護法改正で FAX の事故リスクが顕在化、(3) 保証会社が API 連携を本格化、(4) 電子契約が普及、の 4 点。

FAX 廃止の本当の理由は 「事務工数の削減」だけではない当社が試算した FAX 由来のリスクは以下:

  • 転記ミス: 手入力での誤りが月平均 4 件、契約直前で発覚すると再書類で 3 〜 5 日遅延。
  • スピード遅延: 申込から審査開始まで平均 3.8 日。競合に契約を取られるリスク。
  • 顧客体験悪化: 入居希望者から「FAX なんて使ってるの?」と若年層に敬遠される。

2. Phase 1 (Day 1 〜 30): 申込フォームの標準化

最初の 30 日は、自社で使う 申込フォームの標準化から始める。BB やシステムを変える前に、申込書の項目自体を整える。

標準化すべき項目 (28 項目)

当社が ウルスタ BB 上で運用している標準申込フォームは以下 28 項目:

  1. 申込者: 氏名 / フリガナ / 生年月日 / 性別
  2. 連絡先: 携帯 / メール / 現住所
  3. 勤務先: 会社名 / 所在地 / 電話 / 業種 / 役職 / 勤続年数
  4. 収入: 年収 / 月収 / 賞与
  5. 家族構成: 同居人数 / 続柄 / 各人の年齢
  6. 緊急連絡先: 氏名 / 続柄 / 電話 / 住所
  7. 連帯保証人 (必要時): 氏名 / 続柄 / 勤務先 / 年収
  8. 入居希望日 / 契約期間希望
  9. 家賃支払方法 (口座振替 / クレジット)
  10. 保証会社利用希望 / 火災保険希望
  11. 特約事項 / 質問事項自由記述欄

標準化の手順

  1. 既存の自社申込書 + 保証会社の審査必須項目 + 主要 BB のフォーム項目を突き合わせ。
  2. 共通項目を抽出し、自社の標準フォームを 28 項目に絞る。
  3. 項目ごとに入力規則 (必須 / 任意 / 文字数制限 / 形式) を定義。
  4. 顧問弁護士に個人情報取得項目の妥当性をレビューしてもらう。
  5. 確定版を ウルスタ BB の申込フォームに反映。

Phase 1 終了時点で、自社内の申込書 (紙 / FAX / オンライン) が同一項目で統一される。これがないと、後の自動連携が崩れる。

3. Phase 2 (Day 31 〜 60): BB 経由のオンライン受領体制を構築

Phase 2 の 30 日は、同業者からの申込を BB 経由で受け取る体制を作る。

導入する仕組み

  • BB の申込フォーム機能を ON: ウルスタ BB / canary / ATBB の申込機能を有効化。
  • 申込受領通知の自動振分: 元付物件の担当者にメール + Slack 通知。
  • 申込データの自社 CRM 自動取込: API 経由で CRM に転記、手入力ゼロ。
  • FAX 受信時の処理ルール: 当面の救済措置として「FAX で来た申込は事務が ウルスタ BB に手入力する」運用に。

同業者への告知 (重要)

BB オンライン化の最大の壁は 「同業者がついてきてくれるか」。当社は以下を実施:

  • 主要 12 社には電話 + 訪問でフォロー。
  • 「FAX も当面受けるが、BB 経由だと審査が 1 日早い」と特典提示。
  • 業者勉強会で 業者間流通 BB 経由申込の使い方デモを実施 (35 社参加)。

Phase 2 終了時点で、BB 経由の申込比率が大きく上昇し、同業者の多くが新フローに乗ってくれた。

4. Phase 3 (Day 61 〜 90): 保証会社 API 連携と電子契約一気通貫

Phase 3 の 30 日は、申込受領後のフローを自動化する。BB → 保証会社 → 電子契約までを一気通貫にする。

保証会社 API 連携

主要保証会社 (日本セーフティー / 全保連 / Casa / アルファー / オリコフォレントインシュア など) は 2024 〜 2025 年に API 公開を進めた。当社では ウルスタ BB から保証会社 5 社に同時に審査依頼を送信できる仕組みを実装。

  • 導入前: 1 件あたり保証会社送付の事務 18 分。
  • 導入後: ボタン 1 つで送信完了、平均 90 秒。
  • 審査結果も API 経由で自動取込、メール添付 PDF を開く必要なし。

電子契約への接続

保証会社審査通過後、CRM 上で契約書ドラフトを自動生成 → 電子契約サービス (クラウドサイン / GMO サイン / freee サイン) に自動連携。

  • 導入前: 契約書作成 → 印刷 → 押印 → 郵送、合計 5 〜 7 日。
  • 導入後: ドラフト生成 → メール署名依頼 → 完了、最短当日。
  • 収入印紙代の削減: 紙契約 1 件あたり 200 円 〜 1,000 円が不要。年間 287 件で約 8 万円節減。

5. 不動産業務における数値で見るオンライン化効果 — 6 ヶ月実績

6. ITスキルがない中小仲介向けの簡易導入パス

「90 日のフル実装は無理」という会社向けに、より簡易な導入パスも提示する。

30 日簡易プラン

  1. Day 1 〜 10: ウルスタ BB に登録 (月 5,000 円〜)。サポートに依頼して標準申込フォームを設定。
  2. Day 11 〜 20: 同業者 5 〜 10 社に「BB 経由申込でお願いします」と連絡。
  3. Day 21 〜 30: 保証会社 1 社だけ API 連携 (主要保証会社の中で扱い件数最多のもの)。電子契約は無理せず後回し。

この簡易プランでも、月次事務工数 -40%、申込 → 審査スピード -50% は実現できる。完璧を狙わず、まず動かすのが重要。

7. 不動産業務におけるオンライン化のリスクとその対策

(1) システム障害時の申込受付停止

2025 年 7 月、ウルスタ BB のシステムメンテナンスで 2 時間停止した際、申込受付ができず機会損失が発生した。対策: メンテナンス予定を 1 週間前に同業者へ通知、緊急時用の FAX 番号を併設しておく。

(2) 個人情報の入力ミスがそのままシステムに伝播

FAX 時代は事務担当が転記時にミスをキャッチできたが、API 連携だと入力ミスがそのまま保証会社まで流れる。対策: 申込フォームに自動バリデーション (生年月日と年齢の整合性、勤続年数の妥当性、メールアドレス形式) を実装。

(5) 電子契約の家主側理解不足

高齢家主から「電子契約は本当に法的に有効なのか」と質問が来る。対策: 国交省の電子契約ガイドライン (2022 年宅建業法改正) を 1 枚 PDF にまとめ、家主向け配布資料として常備。

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8. 不動産業務におけるオンライン化後の事務スタッフの役割再設計

事務スタッフの新しい役割

  • 顧客対応強化: 入居者からの問合せ電話、退去予告対応、退去立会日程調整。
  • 家主リレーション: 家主への定期報告、家賃改定の提案資料作成、賃料設定書のドラフト。
  • BB データ品質管理: ウルスタ BB 上の物件マスター精査、写真の更新、価格調整の提案。
  • 業者ネットワーク事務: 業者勉強会の案内、共催内見会の段取り、LINE グループ管理。
  • マーケティング補助: SNS 投稿、コラム原稿の下準備、家主向けニュースレター作成。

結果、事務スタッフの自己評価も上がり、「単純作業から解放されて仕事が面白くなった」というフィードバックを得た。オンライン化は雇用を奪うのではなく、仕事の質を上げる手段

9. 業界全体のオンライン化動向 — 2026 年の数値

業界統計

  • BB 経由申込比率: オンライン化が大きく進んでいます。
  • 電子契約導入率: 導入が着実に進んでいます。
  • 保証会社 API 連携: 対応が進みつつあります。
  • FAX 完全廃止: 段階的に進める会社が増えています。

政策動向との関連

2025 年 12 月の国交省 DX 推進指針で、「不動産取引のオンライン完結率 90% を 2030 年までに達成」が目標化された。これに伴い、業者間流通 BB 各社も機能拡充を加速している。先行投資のリターンは大きい。

私が他社と意見が違う点 — 「FAX は当分なくならない」論への反論

業界の高齢経営者から 「FAX は当分なくならない、急ぐ必要はない」という意見をよく聞く。私はこの認識に正面から反対する。

KEY POINT結論として、「FAX 廃止は経営判断の遅延コストが大きい。2026 年中に決断すべき」。これが 8 年運用してきた私の現場感覚。

10. 申込オンライン化を阻む「3 つの心理的バリア」とその崩し方

バリア 1: 「FAX で慣れているから変えたくない」

事務スタッフの本音。20 年来の運用を変えるのは認知的負荷が大きい。対策: 並行運用期間 (90 日) を設け、本人のペースでオンライン移行できる環境を作る。強制ではなく自発的な切り替えを促す。

バリア 3: 「同業者がついてこない」

心理的バリアは技術導入の最大の障壁だが、丁寧な並行運用と実データの提示で必ず崩せる。経営者のリーダーシップが鍵。

現場メモ|よくある失敗と対処
実務で繰り返し起きる失敗と、その対処
▸ よくある失敗

戸数が少ないうちは、Excel と紙でも管理は回る。ところが管理戸数が増えると、「どこに何を書いたか」を探す時間がじわじわ増えていく。多くの会社は、探す時間が業務を圧迫してから初めて仕組みを見直すことになり、その時点では移行の手間も大きくなっている。

▸ そこから得た学び

不動産業務改善で大事なのは「派手なツールの導入」ではなく「現場業務の小さな詰まりを1つずつ取り除くこと」。月1時間の改善でも積み上げれば年12時間、3年で36時間が浮く。

▸ 今やるべきこと

本記事の論点を、まず1つだけ自社の業務フローに落とし込む。3週間継続できれば、改善は習慣化する。

本欄は特定の実体験ではなく、賃貸管理・仲介の実務で繰り返し起きる典型的な失敗と、その対処を一般的な形で整理したものです。

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不動産業務のよくある質問 FAQ|実務で押さえるべきポイント

Q4. オンライン化で個人情報事故のリスクは増えませんか?

A. 適切に設計されたシステムでは逆に減ります。ウルスタ BB は SSL 通信 + アクセスログ記録 + 多要素認証で、FAX 誤送信のような物理的事故が発生しません。当社では導入後、個人情報事故ゼロを継続中。

Q5. 90 日プランで失敗する場合、典型的なつまずく箇所は?

A. 多いのは (1) 同業者への告知不足 (2) 保証会社の API 対応未確認 (3) 社内事務の業務フロー再設計を後回し、の 3 つ。Phase 開始前に必ず同業者・保証会社・社内事務とすり合わせをしてください。

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不動産業務の利益相反開示 — 馬場生悦 = ウルスタ 創業者

本記事の著者である馬場生悦は、不動産 SaaS「ウルスタ」の創業者であり、業者間流通プラットフォーム ウルスタ BB を運営しています。記事中の事例・数値は当社運用の実データに基づきますが、自社サービスへの誘導が含まれます。利害関係をここに明示します。

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よくある質問 FAQ|実務の疑問に答える

本記事の論点に関連する、現場でよく寄せられる質問への回答をまとめました。

Q1. 業務改善はどこから始めるべきですか?
A. 時間調査 (各業務の所要時間) を1週間実施し、上位3業務を特定するところから始めるのが鉄則です。改善効果の大きい業務に資源を集中投下できます。
Q2. DXとIT化の違いは何ですか?
A. IT化は既存業務を効率化するに留まり、DXは業務プロセスとビジネスモデル自体を再設計する取り組みです。中小不動産会社はまずIT化から始め、段階的に DX へ進化するのが現実的です。
Q3. SaaS 導入の予算感はどれくらいですか?
A. 中小規模会社で月額5-15万円、年間60-180万円が目安。ROI は導入1年以内に200-300%に達する事例が一般的です。
Q4. 業務マニュアルはどう整備すべきですか?
A. 動画 + チェックリスト + テンプレートの3点セットが最も定着率が高くなります。文書だけでは新人の習得に時間がかかります。
Q5. 業務改善が現場に定着しない原因は?
A. 「経営層の本気度が見えない」「個人にメリットが提示されない」「中間管理層が抵抗する」の3点が主要原因。トップダウンと現場ボトムアップの両輪設計が必要です。

出典・参考資料

本記事の数字は、筆者が自社で保有する物件と、伴走した管理会社の記録に基づく実務値です。公的統計を引用した箇所には、その都度本文中に出典を示しています。

よくある質問

Q. 不動産業務をデジタル化するメリットは?
不動産業務のデジタル化は、単なるペーパーレス化ではなく、「ミス削減」「スピードアップ」「営業機会増」の 3 つのメリットがあります。例えば「顧客データベース」を導入すれば、営業スタッフが顧客情報を正確に把握でき、提案の質が向上します。同時に、重複営業や対応漏れがなくなり、顧客満足度も向上するのです。
Q. SaaS 導入で費用対効果を出すには?
費用対効果を出すには、導入前に「どの業務が月何時間かかっているか」を把握することが必須です。その上で、SaaS で削減できる工数を測定し、「年間削減額」を算出します。一般的には「初期費用 + 年間使用料」を「年間削減額」で割った「回収年数」が 1 年以内なら、投資価値があります。
Q. 不動産会社の DX 導入で成功する条件は?
DX 成功の条件は「経営層の強いコミットメント」と「現場スタッフの主体的な関与」です。経営層が予算と時間を確保し、現場スタッフが「このツールでどう楽になるか」を主体的に考えるようになれば、3~6 ヶ月で「これなしで仕事はできない」レベルの定着率を達成できます。