電子署名で結んだ不動産の契約は、法律上有効です。ただし「契約が成立するか」と「裁判で本人が結んだと証明できるか」は別の問題で、後者を支えるのが電子署名法3条の推定です。宅建業の書面(媒介契約書・重要事項説明書・37条書面)を電子で渡すには、宅建業法34条の2第11項・35条8項・37条4項5項の要件として、相手方の承諾と改変を確かめられる措置が必要です。この記事では条文と国の資料にそって、何を満たせばよいかを整理します。
電子契約の有効性は「成立」と「証拠力」の2段階で考える
電子契約の法的有効性を考えるときは、2つの問いを分けると整理しやすくなります。1つ目は「その契約は成立しているか」、2つ目は「争いになったとき、本人が結んだ契約だと証明できるか」です。
契約の成立:原則として書面は要らない
民法522条1項は、契約は申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立すると定めています。同条2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成その他の方式は要らないとしています。つまり、多くの契約は電子でも口頭でも成立します。
注意が必要なのは「法令に特別の定めがある場合」です。不動産の実務では、保証契約(民法446条2項)や定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)のように、書面でしなければならない契約があります。これらは、それぞれの法律が電磁的記録でしたときの扱いを定めているかどうかで判断します(後の章で整理します)。
証拠力:本人が作った文書だと示せるか
契約が成立していても、相手方が「自分は署名していない」と言えば、本人が作成したこと(文書の成立の真正)を証明する必要があります。民事訴訟法228条1項は、文書はその成立が真正であることを証明しなければならないと定めています。電子署名が意味を持つのは、主にこの場面です。
電子署名法2条・3条が定めること
2条:「電子署名」の定義
電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)2条1項は、電子署名を、電磁的記録に記録できる情報について行われる措置で、次の2つをどちらも満たすものと定めています。
- その情報が、措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること
- その情報について改変が行われていないかどうかを確認できるものであること
3条:真正に成立したものと推定する
電子署名法3条は、電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く)は、本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定すると定めています。ここでいう電子署名には、「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」に限るという条件が付いています。この条件は「固有性の要件」と呼ばれます。
紙の契約書では、民事訴訟法228条4項が、私文書は本人またはその代理人の署名または押印があるときは真正に成立したものと推定すると定めています。電子署名法3条は、電子の文書について同じ役割を担う規定です。
立会人型の電子契約サービスと政府のQ&A
不動産会社が使う電子契約サービスの多くは、利用者が自分の電子証明書を持つのではなく、利用者の指示を受けてサービス提供事業者が自分の署名鍵で暗号化等を行う方式です(一般に「立会人型」「事業者署名型」と呼ばれます)。この方式が電子署名法の電子署名に当たるかについて、政府は2つのQ&Aを公表しています。
| 資料 | 公表 | 要点 |
|---|---|---|
| 電子署名法2条関係Q&A | 2020年7月17日(総務省・法務省・経済産業省) | 技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されている場合は、利用者が行った措置と評価し得る |
| 電子署名法3条関係Q&A | 2020年9月4日(2024年1月9日一部改定。改定時はデジタル庁・法務省) | 3条が適用されるには、利用者とサービス提供事業者の間の手続と、事業者内部の手続のいずれも十分な水準の固有性を満たす必要がある |
3条関係Q&Aで押さえる4点
- 2要素認証:利用者とサービス提供事業者の間では、2要素による認証を受けなければ措置を行えない仕組みであれば、十分な水準の固有性を満たすと評価され得るとされています。メールアドレスの登録に加えてワンタイムパスワードを入力する方式などが例に挙がっています。
- 事業者内部の管理:十分な暗号の強度、適切な鍵の管理、利用者ごとの個別性を担保する仕組みが求められます。
- 身元確認:利用者の身元確認は3条の推定が働くための必須の要件ではないものの、成立の真正を立証する有効な手段になり得るとされています(問4)。
- 最終的には裁判所の判断:電子文書の成立の真正は、3条の推定だけで決まるものではなく、口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果をしん酌して、裁判所の自由な心証で判断されるとされています(問6)。
実務での意味は次のとおりです。サービスを選ぶときは、2要素認証が使えるか、署名の記録(いつ、どのメールアドレスと認証で操作されたか)が残るかを確認します。そのうえで、契約の相手方が本当に本人かを確かめる手順は、サービスとは別に自社で持っておく必要があります。Q&A(問5)も、利用者は適切なサービスを慎重に選ぶことが適当としています。
宅建業法で書面を電子化するときの要件
宅建業者が交付する書面は、デジタル社会形成整備法による宅建業法の改正で、2022年5月18日から相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できるようになりました。同じ改正で、重要事項説明書と37条書面への宅建士の押印は不要になり、記名に改められています(35条5項・37条3項)。
| 書面 | 電子化の根拠 | 承諾を得る相手 | 押さえる点 |
|---|---|---|---|
| 媒介契約書(34条の2書面) | 34条の2第11項 | 依頼者 | 宅建業者の記名押印に代わる措置を講じた電磁的方法で提供する |
| 重要事項説明書(35条書面) | 35条8項 | 説明の相手方等 | 宅建士に提供させる。宅建士の記名が必要 |
| 売買・交換の37条書面 | 37条4項 | 自ら当事者なら相手方、代理なら相手方と代理を依頼した者、媒介なら各当事者 | 宅建士の記名が必要 |
| 貸借の37条書面 | 37条5項 | 代理なら相手方と代理を依頼した者、媒介なら各当事者 | 宅建士の記名が必要 |
国交省マニュアルが示す共通の要件
国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」は、34条の2書面・35条書面・37条書面に共通する要件を示しています。要点は次のとおりです。
- 事前の承諾:電子書面を提供する方法(電子メール、ウェブからのダウンロード、USBメモリ等の交付など)と、ファイルへの記録の方式(ソフトウェアの形式やバージョン等)を示したうえで、承諾を得ます。承諾は、書面や電子メールなど記録が残る方法で取ります。承諾の後でも、相手方は電磁的方法による提供を受けない旨を申し出ることができます。
- 宅建士の明示:35条書面・37条書面では、電子書面の提供を行う宅建士を明示するため、宅建士の記名が必要です。
- 改変の確認:改変が行われていないかを確認できる措置として、電子署名やタイムスタンプが想定されています。
- 出力できること:電子書面は、出力して書面を作成できるものである必要があります。
- 到達の確認:提供した旨を通知した後、電子書面が到達していること、閲覧できること、文字化けや文字欠けがないことの確認を相手方に依頼します。
IT重説を行うときの確認事項
重要事項の説明をテレビ会議等で行う場合(IT重説)も、同じマニュアルが手順を示しています。電子書面の提供とは別の要件があるため、分けて確認します。
- 説明に先立ち、宅建士が記名した重要事項説明書と添付書類を相手方に送付しておく
- 映像を視認でき、音声を聞き取ることができ、双方向でやりとりできる環境であることを、説明の前に確認する
- 宅建士証を画面で提示し、相手方が視認できたことを確認する(宅建士証に記載された氏名を読み上げてもらう等)
- 録画・録音をする場合は、利用目的をできるだけ明らかにし、双方の了解のもとで行う
- 映像や音声に不具合が生じて解消しない場合は、説明を中断する
IT重説の具体的な進め方はIT重説の手順と確認表で詳しく扱っています。
宅建業法以外で書面が必要な契約
不動産の取引では、宅建業法以外にも書面を求める規定があります。電子化できるかどうかは、規定ごとに確かめます。
| 契約・書面 | 根拠 | 電子での扱い |
|---|---|---|
| 保証契約(連帯保証を含む) | 民法446条2項 | 書面でしなければ効力を生じないが、同条3項により、内容を記録した電磁的記録でしたときは書面でしたものとみなされる |
| 定期建物賃貸借の契約 | 借地借家法38条1項 | 同条2項により、電磁的記録でしたときは書面でしたものとみなされる |
| 定期建物賃貸借の事前説明書面 | 借地借家法38条3項 | 同条4項により、建物の賃借人の承諾を得て電磁的方法で提供できる。説明をしなかったときは、更新がない旨の定めは無効(同条5項) |
| 管理受託契約の重要事項説明書 | 賃貸住宅管理業法13条1項 | 同条2項により、賃貸人の承諾を得て電磁的方法で提供できる |
| 管理受託契約の締結時書面 | 賃貸住宅管理業法14条1項 | 同条2項が13条2項を準用し、承諾を得て電磁的方法で提供できる |
定期借家の事前説明は、契約書とは別の書面で行うことが求められる点に注意が必要です。電子化するときも、契約書のデータとは別に説明書面を用意し、承諾と説明の記録を残します。
電子契約を運用するときの確認項目
要件を満たしていても、記録が残っていなければ後から示せません。運用の段階で確認する項目を、手順の例としてまとめます。
| 場面 | 確認すること | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 電子化の前 | 提供方法とファイル形式を示し、記録が残る方法で承諾を得たか | 宅建業法34条の2第11項・35条8項・37条4項5項、国交省マニュアル |
| 署名の依頼 | 2要素認証を設定したか。送信先メールアドレスは本人のものか | 電子署名法3条関係Q&A |
| 本人確認 | 本人確認書類と、署名に使ったメールアドレス・電話番号の対応を記録したか | 身元確認は立証の有効な手段になり得る(同Q&A問4) |
| 書面の作成 | 35条書面・37条書面に宅建士の記名があるか。改変確認の措置があるか | 宅建業法35条5項・37条3項、国交省マニュアル |
| 提供の後 | 到達・閲覧・文字化けがないことを相手方に確認したか | 国交省マニュアル |
| 保存 | 締結済みのデータと署名の記録を、検索できる形で保存しているか | 電子帳簿保存法7条 |
| 紙を望む相手 | 電子を受けない旨の申出があったとき、紙で交付する手順があるか | 国交省マニュアル(承諾後の申出) |
税務上の保存も確認する
電子帳簿保存法2条5号は、取引情報(契約書などに通常記載される事項)の授受を電磁的方式で行う取引を「電子取引」と定めています。同法7条は、所得税・法人税の保存義務者が電子取引を行ったときは、その取引情報の電磁的記録を保存しなければならないと定めています。保存の方法は財務省令で定められているため、詳細は国税庁の資料で確認します。
ウルスタくんでの扱い
ウルスタくんでは、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類を作成し、電子サインを依頼できます。物件・入居者の情報と書類がひもづくため、どの契約をいつ、誰と電子で結んだかを後から確認しやすくなります。承諾の取得や本人確認、宅建士の記名などの要件は、この記事の確認項目にそって運用してください。
導入前の確認項目は電子契約の導入前チェックリスト、35条書面の記載事項は重要事項説明書のテンプレートにまとめています。
よくある質問
Q1. 立会人型の電子契約サービスで結んだ賃貸借契約は有効ですか。
賃貸借契約は、法令に特別の定めがない限り、方式を問わず成立します(民法522条2項)。立会人型で結んだ契約も成立します。裁判で本人が結んだことを示す場面では、電子署名法3条関係Q&Aが示す固有性の水準(2要素認証など)を満たしているか、署名の記録や本人確認の記録があるかが意味を持ちます。
Q2. 電子署名があれば、本人確認をしなくてよいですか。
3条関係Q&Aは、身元確認は3条の推定が働くための必須の要件ではないとしつつ、成立の真正を立証する有効な手段になり得るとしています。なりすましを防ぐ意味でも、本人確認書類と署名に使った連絡先の対応は記録しておくのが安全です。
Q3. 連帯保証人の契約も電子で結べますか。
結べます。民法446条2項は保証契約を書面でしなければ効力を生じないとしていますが、同条3項により、内容を記録した電磁的記録でしたときは書面でしたものとみなされます。個人の根保証では極度額の定めが必要になるなど(民法465条の2)、内容面の要件は紙と同じです。
Q4. 相手方が「やはり紙でほしい」と言ったらどうしますか。
国交省のマニュアルは、承諾の後でも相手方は電磁的方法による提供を受けない旨を申し出ることができるとしています。申出があったときは書面で交付します。申出を受けた日と方法も記録しておきます。
出典(本文で参照している資料)
- 電子署名及び認証業務に関する法律(e-Gov法令検索)2条・3条
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索)228条
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)34条の2・35条・37条
- 民法(e-Gov法令検索)446条・465条の2・522条
- 借地借家法(e-Gov法令検索)38条
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)13条・14条
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(e-Gov法令検索)2条・7条
- 利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(2020年7月17日)
- 同Q&A(電子署名法第3条関係)(2020年9月4日、2024年1月9日一部改定)
- 法務省「電子署名法に基づく特定認証業務の認定について」
- 国土交通省 報道発表(2022年4月22日 閣議決定、2022年5月18日施行)
- 国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。