顧客管理 / 追客 読了 14分

不動産CX改善の進め方|顧客接点5段階の見直し方と、重要事項説明・契約書面・定期報告の生かし方

不動産会社のCX(顧客体験)改善は、法律で決まっている重要事項説明・契約書面・定期報告を分かりやすく確実に行うことから始めます。問い合わせから退去までの5段階の接点、オーナーとの接点、不満の拾い方、3か月で進める手順の例を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産CX改善の進め方|顧客接点5段階と重要事項説明・定期報告の生かし方
目次

小さな不動産会社のCX(顧客体験)改善は、法律で決まっている顧客接点、つまり重要事項の説明、契約の書面、管理業務の定期報告を分かりやすく確実に行うことから始め、その前後の連絡を整えていくのが近道です。新しい設備や大きな広告費をかけなくても、問い合わせから退去までの接点を5つに分けて、どこで不満が生まれているかを記録から探せば、直す順番が決められます。この記事では、顧客接点の分け方、宅地建物取引業法35条・37条と賃貸住宅管理業法13条・14条・20条で決まっている接点、接点ごとの見直し方、不満の拾い方、3か月で進める手順の例を説明します。

不動産会社のCXとは

CXは「カスタマーエクスペリエンス」の略で、顧客体験と訳されます。お客様が会社を知ってから、取引が終わり、その後に関係が続く間までに受け取る印象の積み重ねのことです。1回の対応の満足度(CS)よりも、流れ全体で見るところに違いがあります。

不動産会社のお客様は1種類ではありません。

  • 借りる人(入居希望者、入居者)
  • 貸す人(オーナー、管理を任せてくれる人)
  • 買う人、売る人
  • 取引先(ほかの仲介会社、修理業者など)

同じ会社でも、相手によって接点の中身は違います。CX改善を始めるときは、まず対象を1つに絞ると進めやすくなります。この記事では、賃貸の入居者と、管理を任せてくれるオーナーを中心に説明します。

顧客接点を5段階に分ける

入居者との接点は、次の5段階に分けると整理しやすくなります。

段階お客様が気にしていること会社がすること関係する決まり
1. 問い合わせ返事が来るか、物件がまだ空いているか返信、空室の確認、条件の聞き取り誇大広告の禁止(宅地建物取引業法32条)
2. 案内・内見時間どおりに来るか、物件の説明が正しいか日程の調整、現地の準備、説明法律で決まった手続きは特になし
3. 申込み・契約費用はいくらか、契約の中身が分かるか審査、重要事項の説明、契約、鍵渡し宅地建物取引業法35条・37条
4. 入居中困ったときにすぐ連絡がつくか修理の受付、苦情への対応、更新の案内賃貸住宅管理業法20条(オーナーへの報告に入居者の苦情を含む)
5. 退去敷金がいくら戻るか、費用の理由が分かるか退去立会い、精算、説明国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

5段階のうち、法律で中身が決まっているのは主に3段階目です。ここは「やらなければならないこと」なので、どの会社でも同じことをしています。だからこそ、同じことを分かりやすく行うかどうかで印象の差が出ます。

接点決まり時期CXの観点で見直す点
重要事項の説明(入居者・買主など)宅地建物取引業法35条1項。宅地建物取引士が、書面を交付して説明する。説明のときに宅地建物取引士証を示す(同条4項)、書面に記名する(同条5項)契約が成立するまでの間事前に書面を送って読む時間をとる、専門用語を言い換える、質問の時間を設ける
契約成立後の書面宅地建物取引業法37条。貸借の媒介・代理で契約が成立したら、各当事者に書面を交付し(同条2項)、宅地建物取引士が記名する(同条3項)。相手方の承諾があれば電磁的方法で提供できる(同条4項・5項)契約の成立後控えの渡し方、問い合わせ先の明記、電子で渡すときの承諾の取り方
管理受託契約の重要事項の説明(オーナー)賃貸住宅管理業法13条1項。管理受託契約を結ぶまでに、書面を交付して説明する。承諾があれば電磁的方法で提供できる(同条2項)契約を結ぶまで。国土交通省の解釈・運用の考え方は、説明から契約締結まで1週間程度の期間をおくことが望ましいとしている検討の時間をとる、費用と業務の範囲をはっきりさせる
管理受託契約の書面(オーナー)賃貸住宅管理業法14条1項。対象の賃貸住宅、業務の実施方法、契約期間、報酬、更新・解除の定めなどを書いた書面を、遅滞なく交付する契約を結んだ後説明のときの内容と書面の中身がそろっているか
管理業務の定期報告(オーナー)賃貸住宅管理業法20条、施行規則40条。報告の対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況と対応状況を書いた報告書を交付する契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと、および契約期間の満了後遅滞なく数字の羅列にしない、次にやることと提案を書く

賃貸住宅管理業法の13条・14条・20条は、登録を受けた賃貸住宅管理業者(管理戸数200戸以上で登録が必要。法3条1項、施行規則3条)に適用されます。国土交通省の解釈・運用の考え方は、定期報告について、賃貸人と説明方法を協議したうえで双方向でやりとりできる環境を整え、賃貸人が報告書の内容を理解したことを確かめることとしています。報告書を送るだけでなく、内容が伝わったかを確かめる接点として使えます。

接点ごとの見直し方

ここからは法律の決まりではなく、見直しの手順の例です。効果は会社や地域によって違うので、自社の記録で確かめながら進めてください。

1. 問い合わせ

  • 誰が、いつまでに最初の返信をするかを決める(営業時間外の問い合わせを翌朝誰が見るかも含む)。
  • 最初の返信で、空室かどうか、案内できる日、次に必要な情報を伝える。
  • 成約済みの物件の問い合わせが来ていないか確かめ、掲載を止める。宅地建物取引業法32条は、事実と著しく違う表示や、実際より著しく有利だと誤認させる表示を禁じています。

2. 案内・内見

  • 案内の前に、希望の条件と、費用の総額の目安を確かめておく。
  • 現地の鍵、照明、換気などを事前に確かめる。
  • 案内のあとに、検討に必要な資料(初期費用の明細、設備の一覧など)を送る。

3. 申込み・重要事項の説明・契約

  • 重要事項説明書と契約書の案を事前に送り、読む時間をとってもらう。
  • 説明では、費用、解約の手続き、更新、原状回復の特約など、あとで問題になりやすい部分を先に説明する。
  • 国土交通省の原状回復ガイドラインは、原状回復の特約を設ける場合、契約書面にはっきり定めたうえで、借主の十分な認識と了解をもって契約することが必要としています。特約は読み上げるだけでなく、具体的にどんな費用になるかを例で説明します。
  • 鍵渡しのときに、入居時の部屋の状態を写真やチェックリストで一緒に確かめる。ガイドラインも、損耗の箇所や程度を平面図に書き込んだり写真を撮ったりすることを重要としています。

4. 入居中

  • 修理や苦情の連絡先と受付時間を、入居時の案内にはっきり書く。
  • 連絡を受けたら、次にいつ連絡するかを伝える。
  • 更新が近い入居者には、早めに条件と手続きを案内する。
  • 苦情は記録して、同じ建物で同じ種類のものが続いていないかを見る。苦情の記録と早期発見の方法はクレームの炎上を防ぐ早期発見の仕組みで説明しています。

5. 退去

  • 退去の連絡を受けたら、立会いの日程、精算の流れ、敷金が戻る時期の目安を伝える。
  • 立会いでは、入居時の記録と比べながら説明する。
  • 精算書には、項目ごとに借主の負担とする理由を書く。

国民生活センターの「賃貸住宅の原状回復トラブル」のページには、敷金が返ってこない、敷金を超える額を請求された、といった相談の例が載っています。退去は最後の接点なので、ここでの説明が会社全体の印象を左右します。

ウルスタくんでは、賃貸借契約書や重要事項説明書など24種の書類を作成でき、電子サインにも対応しています。更新が近い契約の一覧から更新の案内を出す時期も確かめられます。

オーナーとの接点

管理を任せてくれるオーナーとの接点は、入居者とは別に整理します。

  1. 管理の相談・提案:管理料と、その料金で何をするのかをはっきりさせる。
  2. 管理受託契約の説明と契約:賃貸住宅管理業法13条の説明は、契約を結ぶまでに書面で行う。解釈・運用の考え方は、業務管理者の管理・監督の下で行う必要があり、業務管理者や一定の実務経験がある人が行うことが望ましいとしています。
  3. 毎月の送金と明細:入金、管理料、修繕費などの差し引きが分かる明細を渡す。
  4. 修繕や事故の連絡:費用がかかる判断は早めに相談し、緊急の対応は事後に速やかに報告する。
  5. 定期報告:施行規則40条の事項に加えて、空室の状況や修繕の提案を書く。

情報が届いていないと、オーナーは「知らないうちに費用が引かれていた」「空室が続いているのに提案がない」と感じることがあります。毎月の明細と定期報告を、説明の機会として使います。ウルスタくんのオーナーへの送金明細は、管理料・修繕費を差し引いた明細として出せます。

不満の拾い方

CX改善で大切なのは、どこを直すかを感覚ではなく記録で決めることです。新しい仕組みを入れる前に、すでにある記録から拾えるものがあります。

記録分かること
苦情の記録(定期報告のために残しているもの)入居中の段階で、どの種類の不満が多いか
問い合わせの記録最初の返信までの時間、案内につながらなかった理由
申込みのキャンセルの理由案内や契約の段階で、何が引っかかったか
退去の連絡と理由入居中の不満が退去につながっていないか
退去精算での質問や異議説明が足りていない費用の項目

アンケートを取る場合は、設問を少なくし、答えやすい時期(契約の直後、修理の完了後、退去の精算後など)に送ります。点数だけでなく「理由」を書く欄を1つ設けると、どこを直せばよいかが分かります。

測る数字(指標)を決める場合は、目標の数値を先に決めるより、まず今の状態を記録することから始めます。たとえば「最初の返信までの時間」「修理の連絡から業者の手配までの日数」「退去精算の問い合わせの件数」などです。どの数字を何に使うかを決めてから集めると、集めて終わりになりません。

3か月で進める手順の例

少人数の会社で、通常業務と並行して進める場合の例です。

1か月目:接点と記録の棚卸し

  • 5段階の接点ごとに、誰が何をしているかを書き出す。
  • 苦情、問い合わせ、キャンセル、退去の記録が、どこにどの形で残っているかを確かめる。
  • 記録から、不満が多い段階を1つ選ぶ。

2か月目:法定の接点を見直す

  • 重要事項説明書と契約書を事前に送る流れを決める。
  • 原状回復の特約の説明のしかたを、例を使った形にそろえる。
  • オーナーへの定期報告の書式を見直し、提案の欄を加える。

3か月目:選んだ段階を直し、記録で確かめる

  • 1か月目に選んだ段階で、手順を1つ変える(返信の担当と期限を決める、完了後の確認の連絡を入れる、など)。
  • 変えたあとの記録を、変える前と比べる。
  • うまくいったものは手順書に書き、次の段階に進む。

一度に全部を直そうとすると、通常業務が回らなくなります。1つの段階で1つの手順を変え、記録で確かめてから次に進むほうが、少人数の会社では続けやすい進め方です。

このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. CXとCS(顧客満足)は何が違いますか?

CSは、ある対応や取引に対する満足の度合いを指すことが多い言葉です。CXは、問い合わせから退去までの流れ全体で受け取る体験を指します。CX改善では、1つの対応だけでなく、接点のつながり(引継ぎ、連絡の間隔など)も見直します。

Q2. 費用をかけずにできることはありますか?

あります。重要事項説明書の事前送付、次の連絡時期を伝えること、修理の完了後の確認の連絡、退去精算書に理由を書くことなどは、手順を変えるだけでできます。

Q3. 重要事項説明書や契約の書面は電子で渡してもよいですか?

宅地建物取引業法37条4項・5項は、相手方の承諾を得て、書面に代えて電磁的方法で提供できるとしています。賃貸住宅管理業法13条2項(14条2項で準用)も、賃貸人の承諾を得て電磁的方法で提供できるとしています。承諾の取り方などの細かい手続きは、国土交通省の資料で確かめてください。

Q4. オーナーへの定期報告は、年1回で足りますか?

施行規則40条が求めるのは、契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとの報告です。法令上はこれが最低限で、毎月の送金明細や事故の連絡とは別に行います。オーナーとの関係を考えると、年1回の報告だけでなく、毎月の明細や個別の連絡も報告の機会として使うほうが、情報が届いていないという不満を防ぎやすくなります。

Q5. 口コミの評価を上げるにはどうすればよいですか?

評価そのものを目標にするより、口コミに書かれた不満が、5段階のどこで生まれたものかを確かめるほうが役に立ちます。書かれた内容に当たる事実があれば、その段階の手順を見直します。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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