法人契約(借上げ社宅)の申込では、契約者(法人)、入居者(社員)、家賃を払う人の3つを最初に書面で確定させることが要です。法人の実在は国税庁の法人番号公表サイトや登記事項証明書で確かめられ、契約書には社員が社宅として住むことを書いておきます。この記事では、民法612条、宅建業法35条・37条、国土交通省の報酬告示、国税庁のタックスアンサー(No.2597、No.6226)をもとに、中小の管理会社や仲介会社が法人や社宅代行会社からの申込を受けるときの手順を整理します。
先に結論
- 契約者、入居者、支払う人を分けて書きます。法人契約では、この3つが別の人や会社になることがあります。申込書と契約書でそれぞれを特定します。
- 社員が住むことを契約書に書きます。民法612条は、賃貸人の承諾なく第三者に使わせることを制限しています。後で争いにならないよう、社宅として社員が住むことを契約書で明確にしておきます。
- 法人の実在は公的な情報で確かめます。法人番号公表サイトで名称と所在地を、必要に応じて登記事項証明書で役員などを確認できます。
- 重要事項説明の相手は借主の法人です。説明を受ける担当者が誰かを決め、電子で書面を渡すなら承諾をとります。
- 居住用の仲介手数料のルールは、法人契約でも同じです。依頼者の一方から受け取れるのは、承諾がない限り借賃の0.55倍(消費税等相当額を含む)までです。
法人契約と個人契約の違い
法人契約では、部屋を借りるのは会社で、住むのは社員です。個人契約と比べて、関わる人が増えるのが一番の違いです。
| 項目 | 個人契約 | 法人契約(借上げ社宅) |
|---|---|---|
| 契約者(借主) | 入居者本人 | 法人 |
| 住む人 | 契約者本人や家族 | 法人の社員や役員など |
| 家賃を払う人 | 入居者本人 | 法人、または社宅代行会社 |
| 連絡の窓口 | 入居者本人 | 法人の総務・人事の担当者、社宅代行会社、入居者本人に分かれることがある |
| 確認する書類 | 本人確認書類、収入の書類など | 法人の情報、担当者の情報、入居者の本人確認など |
関わる人が増えるほど、「誰に連絡すれば決まるのか」が曖昧になりがちです。申込の時点で、契約の判断をする人、書類を受け取る人、入居後の連絡先を分けて書いてもらいます。
借上げ社宅の契約形態と、契約書に書くこと
誰が借主で、誰が住むのか
借上げ社宅は、法人が賃貸人と賃貸借契約を結び、その部屋を社員に使わせる形です。契約書には、借主の法人名と所在地、代表者のほかに、実際に住む人(入居者)の氏名を書く欄を設けます。入居者が替わる可能性があるなら、替わるときの手続き(事前の届出、オーナーの承諾の要否)も決めておきます。
第三者に使わせることの整理(民法612条)
民法612条1項は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸できないと定めています。同条2項は、これに反して第三者に使用させたときは、賃貸人は契約を解除できるとしています。
社員を社宅として住まわせることが法律上どう評価されるかは、契約の内容や使い方によって変わり得ます。争いの余地を残さないために、契約書に「借主は本物件を社員の社宅として使用し、入居者は〇〇とする」といった形で、社員が住むことを賃貸人が承諾している旨を書いておきます。
消費税の扱い(国税庁 No.6226)
住宅の貸付けは、消費税が非課税です。国税庁のタックスアンサーNo.6226は、借主が自ら使わない場合でも、賃貸人と借主の契約で借主が住宅として転貸することが明らかなら、住宅の貸付けとして非課税になると説明しています。また、貸付期間が1か月未満の場合は非課税になりません。
法人契約では、契約書に「居住用」「社宅として使用」と用途を書いておくと、消費税の扱いでも迷いが生じにくくなります。オーナーの税務に関わるため、判断に迷うときはオーナーの税理士に確認してもらいます。
申込の受付で確認する書類
| 対象 | 確認する情報や書類の例 | 確認の目的 |
|---|---|---|
| 法人 | 商号、本店所在地、法人番号、代表者、事業内容が分かる資料 | 契約の相手が実在するか、名称と所在地が正しいか |
| 法人 | 登記事項証明書(必要に応じて) | 代表者や役員、本店の所在地の確認 |
| 担当者 | 部署、氏名、電話番号、メールアドレス | 契約の判断と書類のやり取りの窓口を確定する |
| 入居者 | 氏名、連絡先、本人確認書類、入居予定日 | 実際に住む人の特定と、入居後の連絡先 |
| 支払い | 支払う会社、支払方法、請求書の宛先 | 家賃の請求先と入金の照合 |
法人の実在の確かめ方
国税庁の法人番号公表サイトでは、法人番号の指定を受けた法人の「商号又は名称」「本店又は主たる事務所の所在地」「法人番号」の3つの情報を誰でも検索できます。申込書に書かれた名称と所在地が一致しているかを、まずここで確かめます。
代表者や役員まで確認したいときは、登記事項証明書を取ります。商業登記法10条1項は、何人も手数料を納めて登記事項証明書の交付を請求できると定めています。法務局の窓口のほか、オンラインで請求して郵送で受け取ることもできます。
社宅代行会社が間に入るとき
法人が社宅の手配を社宅代行会社に任せている場合、申込は代行会社から届きます。このとき、代行会社が契約の当事者(借主や転貸人)になるのか、法人の窓口として手続きを代行するだけなのかを、最初に書面で確認します。立場によって、契約書の借主欄、重要事項説明の相手、請求書の宛先が変わるからです。
代行会社が独自の契約書式や覚書を求めてくることもあります。オーナーの承諾が必要な条項(解約予告の期間、原状回復の負担、入居者の交代など)が含まれていないかを読み、オーナーに確認してから返事をします。
重要事項説明と契約書の宛先
宅建業法35条1項は、宅地建物取引業者が貸借の相手方などに対し、契約が成立するまでに、宅地建物取引士に書面を渡して重要事項を説明させることを求めています。法人契約では、借りるのは法人なので、説明の相手は法人です。実際には法人の担当者が説明を受けるため、誰が説明を受けるかを事前に決めておきます。
説明をするときは、宅地建物取引士は説明の相手に宅地建物取引士証を示さなければなりません(35条4項)。入居する社員が説明を受けるのか、総務の担当者が受けるのかで日程の調整先が変わるため、申込の時点で確認しておくと手戻りが減ります。
2022年5月18日からは、相手方の承諾を得れば、重要事項説明書(35条書面)や契約締結時の書面(37条書面)を電磁的方法で提供できるようになりました(35条8項、37条4項)。法人の担当者が遠方にいる場合でも、承諾をとったうえで電子の書面とITを活用した説明を組み合わせられます。37条書面には、宅地建物取引士の記名が必要です(37条3項)。
仲介手数料の取り決め
国土交通省の報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号。現行の内容は2024年7月1日施行)の「第四」は、貸借の媒介で依頼者の双方から受け取れる報酬の合計を、借賃の1か月分の1.1倍(消費税等相当額を含む)以内としています。そのうえで、居住用の建物の賃貸借の媒介で依頼者の一方から受け取れる報酬は、依頼を受けるときに依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1か月分の0.55倍以内です。
社宅は居住用の建物なので、法人契約でもこのルールが当てはまります。法人から1か月分を受け取る場合は、媒介の依頼を受ける時点で法人の承諾を得て、その記録を残しておきます。
社宅の税務で法人から聞かれること
法人が社員に社宅を貸すとき、社員から一定額以上の家賃を受け取っていないと、差額が給与として課税されることがあります。国税庁のタックスアンサーNo.2597によると、社員(使用人)の場合、社員から受け取る家賃が「賃貸料相当額」の50%以上なら、差額は給与として課税されません。賃貸料相当額は次の3つの合計です。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
- 12円×その建物の総床面積(平方メートル)÷3.3(平方メートル)
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
No.2597は、他から借りて社員に貸す場合でもこの3つの合計が賃貸料相当額になり、貸主などから固定資産税の課税標準額などを確認する必要があると説明しています。つまり、借上げ社宅の法人から、管理会社やオーナーに課税標準額の問い合わせが来ることがあります。
課税標準額はオーナーの税務情報です。問い合わせが来たら、オーナーに伝えてよいかを確認し、承諾を得てから回答します。回答の手順をあらかじめ決めておくと、法人の年末調整などの時期に慌てずにすみます。なお、役員に社宅を貸す場合は、No.2600で別の計算方法が示されています。
また、No.2597は、現金で支給される住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担は、社宅の貸与とは認められず給与として課税されると説明しています。法人が「法人契約にしたい」と言うのは、こうした税務上の理由があるからです。
繁忙期に向けた前倒しの準備
法人契約では、社員の異動日に合わせて入居日が先に決まっていることがあります。部屋を探し始めてから入居までの期間が短いと、書類のやり取りが遅れたぶんだけ申込を逃すことになります。前倒しでできる準備をまとめます。
- 空室の予定を早く知る。解約予告を受けたら、退去日と募集開始日をすぐに決めます。
- 法人向けの申込書と書類一覧を用意する。法人、担当者、入居者、支払いの各欄を分けた申込書を作り、必要な書類を一覧にして渡せるようにします。
- 法人の社内手続きに必要な書類を先に出せるようにする。見積書(初期費用の明細)、間取り図、重要事項説明書の案などを、申込と同時に出せるようにしておきます。
- オーナーの方針を先に聞いておく。法人契約の可否、入居者の交代を認めるか、解約予告の期間などを、繁忙期の前にオーナーと決めておきます。
- 電子の書面と説明の段取りを決める。承諾のとり方、説明の日程の調整先、電子サインの流れを決めておきます。
ウルスタくんでは、更新が近い契約の一覧、募集図面(マイソク)の作成、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類と電子サインを使えます。法人契約の書類を前もってそろえておく作業に使えます。
契約で決めておくこと
法人契約は関わる人が多いぶん、入居中や退去のときに「誰に請求するか」「誰が決めるか」で迷いやすくなります。契約の段階で次の点を決めておきます。
- 解約の申し入れをする人(法人か入居者か)と、解約予告の期間
- 入居者が替わるときの手続きと、オーナーの承諾の要否
- 原状回復の費用の請求先と、精算の方法
- 敷金の返還先
- 鍵の本数と受け渡しの相手
- 入居中の緊急連絡先(入居者本人と、法人の担当者)
- 法人の担当者や所在地が変わったときの届出
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 法人契約でも保証会社の審査は必要ですか?
法律で決まっているわけではなく、オーナーの方針と保証会社の取り扱いによります。法人契約で保証会社を使うかどうか、使う場合にどの書類が必要かを、繁忙期の前にオーナーと決めておきます。
Q2. 重要事項説明は入居する社員にしてもよいですか?
借主は法人なので、説明の相手は法人です。法人の担当者が説明を受けるのか、法人から頼まれた入居者が受けるのかを、法人に確認して記録しておきます。
Q3. 法人から仲介手数料を1か月分受け取ってよいですか?
居住用の建物の賃貸借の媒介では、依頼者の一方から受け取れるのは、依頼を受けるときに承諾を得ている場合を除いて借賃の0.55倍以内です。1か月分を受け取るなら、依頼を受ける時点で法人の承諾を得ておきます。
Q4. 法人から固定資産税の課税標準額を聞かれました。答えてよいですか?
課税標準額はオーナーの情報です。オーナーに目的を伝え、承諾を得てから回答します。国税庁のNo.2597では、借上げ社宅でも賃貸料相当額の計算に課税標準額を使うと説明されています。
Q5. 短期間だけ社宅として貸すときに気をつけることは?
国税庁のNo.6226によると、貸付期間が1か月未満の場合は、住宅の貸付けの非課税の扱いになりません。短期の利用を受けるときは、期間と契約の形をオーナーと確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「民法」(612条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(35条、37条)
- e-Gov法令検索「商業登記法」(10条)
- 国税庁「法人番号公表サイト」
- 法務局「登記事項証明書(会社・法人)を取得したい方」
- 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(2024年7月1日施行)
- 国土交通省 報道発表「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。」(2022年4月27日)
- 国税庁 タックスアンサー No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
- 国税庁 タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき
- 国税庁 タックスアンサー No.6226 住宅の貸付け
この記事は2026年10月7日時点の情報です。