顧客管理 / 追客 読了 15分

NPS調査を自社で実施する方法|顧客満足度アンケートの質問の作り方・計算式と個人情報保護法・特定電子メール法の注意点

NPSの調査は、質問を少なく絞り、計算式と個人情報の扱いを先に決めておけば自社で実施できます。入居者やオーナーに満足度を聞くときの質問の作り方、仮の数字による計算例、個人情報保護法の利用目的、依頼メールと特定電子メール法の関係を順に整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
NPS調査を自社で実施する方法|質問の作り方・計算式と個人情報・依頼メールの注意点
目次

NPS(ネット・プロモーター・スコア)の調査は、外注しなくても、質問を少なく絞り、計算式と個人情報の扱いを先に決めておけば自社で実施できます。不動産会社が入居者やオーナー、仲介のお客様に満足度を聞く場合、回答を部屋番号や氏名と結びつければ個人情報になり、アンケートの依頼メールの内容によっては特定電子メール法の対象にもなります。この記事では、質問の作り方、計算の仕方(仮の数字の例)、個人情報保護法の利用目的、依頼メールの注意点を順に整理します。

NPSとは何か

NPSは、顧客に「この会社を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」と尋ね、0から10の11段階で答えてもらう指標です。ベイン・アンド・カンパニーによるNet Promoter Systemの案内では、9と10を付けた人を「推奨者」、7と8を「中立者」、0から6を「批判者」に分け、推奨者の割合から批判者の割合を引いた値をNPSとしています。値はマイナス100からプラス100までの範囲になります。

なお、Net Promoter、NPSなどの名称は、ベイン・アンド・カンパニー、NICE Systems、フレッド・ライクヘルド氏の登録商標と案内されています。自社の調査で同じ考え方を使うことはできますが、社外向けの資料や広告で名称を使う場合は表記に注意します。

NPSの利点は、質問が1つで回答者の負担が小さく、時期を変えて同じ質問を繰り返せば変化を比べやすいことです。一方で、数字だけでは「なぜその点数なのか」が分かりません。理由を聞く質問とセットで使うことが前提になります。

質問の作り方

質問が多いと回答の負担が増え、途中でやめる人が増えます。最初は次の3つに絞る形をおすすめします。

順番質問の例答え方
1当社の管理(または仲介)を、ご家族やご友人に薦める可能性はどのくらいありますか。0から10の11段階
2そう答えた一番の理由を教えてください。自由記述
3この回答について、担当者から連絡を差し上げてもよろしいですか。はい・いいえ(任意で連絡先)

質問を作るときは、次の点に気をつけます。

  • 誘導しない:「いつも丁寧な対応を心がけていますが」のような前置きは、回答を高い方向に寄せます。
  • 対象をはっきりさせる:管理会社として聞くのか、仲介の担当者として聞くのかで、答えの意味が変わります。
  • 目盛りの両端に言葉を付ける:0の側に「まったく薦めない」、10の側に「ぜひ薦めたい」と書くと、読み違いが減ります。
  • 連絡してよいかを聞く:3つ目の質問で本人の意思を確かめておくと、回答の後に連絡するかどうかで迷いません。

修繕の対応、連絡の早さ、契約手続きの分かりやすさなど、個別の項目を知りたい場合は、NPSの質問とは別に、少数の項目を加えます。項目を増やすたびに回答の負担が増えることを考えて、本当に使う項目だけにします。

誰に、いつ聞くか

不動産会社のお客様は、入居者、オーナー、売買・賃貸の仲介のお客様と、立場がさまざまです。立場によって評価の観点が違うため、結果は分けて集計します。聞く時期は、次のように「出来事の直後」か「定期」のどちらかに決めると、比べやすくなります。

  • 仲介のお客様:契約や引渡しが終わった後。手続き全体の印象を聞きやすい時期です。
  • 入居者:入居から一定期間がたった後や、更新の案内を送る前など、時期をそろえて聞きます。修繕の依頼が完了した直後に聞く方法もあります。
  • オーナー:定期の報告書を送る時期に合わせて聞くと、報告の内容への感想も同時に得られます。

配布の方法は、メール、QRコードを載せた書面、郵送の用紙などがあります。お客様によって使いやすい方法が違うため、1つに限らず併用すると回答の偏りを減らせます。どの方法で集めた回答かを記録しておくと、方法による違いも確かめられます。

計算の仕方と読み方

計算そのものは表計算ソフトで足ります。仮の数字で計算例を示します。

NPSの計算例

入居者120件にアンケートを配り、40件の回答があったとします。回答の内訳が、推奨者(9・10)14件、中立者(7・8)16件、批判者(0〜6)10件だった場合、次のように計算します。

項目計算式仮の数字での結果
回答率回答数 ÷ 配布数40 ÷ 120 ≒ 33.3%
推奨者の割合推奨者数 ÷ 回答数14 ÷ 40 = 35%
批判者の割合批判者数 ÷ 回答数10 ÷ 40 = 25%
NPS推奨者の割合 − 批判者の割合35 − 25 = 10

表計算ソフトでは、点数の列に対して「9以上の件数」と「6以下の件数」を数える式を入れれば、回答を追加するたびに自動で計算できます。

回答が少ないときの注意

回答数が少ないと、1人の回答で値が大きく動きます。上の例では回答が40件なので、1人が批判者から推奨者に変わると、批判者の割合が2.5ポイント下がり、推奨者の割合が2.5ポイント上がるため、NPSは5ポイント動きます。前回と比べて数ポイント上がった、下がったという差は、回答数が少ない段階では偶然の範囲かもしれません。値の変化だけで判断せず、回答数を添えて報告し、自由記述の内容とあわせて読むようにします。

他社や業界の数字と比べない

NPSの値は、質問の言い回し、聞く時期、配布の方法、回答した人の偏りで変わります。他社の公表値や業界平均と比べて良い悪いを判断するより、自社の中で同じ条件で繰り返し測り、変化と理由を追うほうが使いやすい指標です。

個人情報保護法で決めておくこと

回答を氏名、部屋番号、メールアドレスと結びつけて集めれば、その回答は個人情報として扱います。個人情報保護法2条1項は、他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できるものも個人情報に含めています。無記名のつもりでも、部屋番号を書いてもらえば入居者名簿と照合できるため、個人情報になると考えて準備します。

利用目的を特定し、示す

同法17条1項は、個人情報を取り扱うに当たって、利用目的をできる限り特定することを求めています。21条1項は、個人情報を取得したときは、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに本人に通知するか公表すること、2項は、本人から直接書面(電磁的記録を含む)で取得する場合は、あらかじめ本人に利用目的を明示することを求めています。アンケート用紙や回答フォームで本人に書いてもらう場合は、回答の前に目にする位置に利用目的を書いておきます。

文例を示します。

  • 「ご回答は、当社の管理業務の改善と、ご回答いただいた内容についてのご連絡に使います。」
  • 「ご回答の内容を、個人が分からない形に集計して、オーナー様への報告に使うことがあります。」

目的の外で使わない

同法18条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことを禁じています。たとえば、満足度アンケートで集めたメールアドレスを、後から別の商品の宣伝に使うことは、利用目的に含めていなければできません。回答の自由記述をそのままオーナーに渡す場合も、利用目的に含まれているか、個人が分かる書き方になっていないかを確かめます。

集計ツールを使うときは委託先の監督

外部のアンケートサービスで回答を集める場合、回答データの取扱いを委託することになることがあります。個人情報保護法25条は、個人データの取扱いを委託する場合に、委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことを求めています。データの保存場所、アクセスできる人、契約終了時のデータの扱いを、利用規約や契約で確かめておきます。

依頼メールと特定電子メール法

アンケートの依頼をメールで送る場合は、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)も確かめます。同法2条2号は、特定電子メールを「電子メールの送信をする者が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メール」と定めています。

総務省と消費者庁の「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」は、取引上の条件を案内する事務連絡や料金請求のお知らせなど、取引関係に係る通知で広告や宣伝の内容を含まないものを、特定電子メールに当たらない例に挙げています。一方で、営業上のサービスや商品を広告・宣伝するウェブサイトへ誘導することが送信目的に含まれる電子メールは、当たる例とされています。

アンケートの依頼だけを内容とするメールがどちらに当たるかは、ガイドラインに直接の記載がなく、内容によって判断が分かれる可能性があります。依頼メールに、キャンペーンの案内や別の物件の紹介、自社サービスのページへの誘導を加えると、特定電子メールに当たる可能性が高くなります。迷う場合は、依頼メールには広告や宣伝を入れないのが分かりやすい方法です。

特定電子メールに当たる場合は、次の義務があります。

  • 送信できる相手の限定:同法3条1項は、あらかじめ送信に同意した人、取引関係にある人などに送信先を限っています。同意を得た場合は、同条2項によりその記録を保存します。
  • 送信停止の求めへの対応:同条3項により、送信しないよう求められたら、その意思に反して送信してはなりません。
  • 表示義務:同法4条により、送信者の氏名または名称、受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスなどを表示します。

当たらない場合でも、送信者の名称、問い合わせ先、今後の依頼を断る方法をメールに書いておくと、受け取る人の不安を減らせます。

回答の後の対応

NPSの調査で大切なのは、点数を集めることより、回答に応えることです。次は対応の手順の例です。

  • 批判者で、連絡してよいと答えた人:自由記述を読んだうえで、担当者や責任者から連絡し、事情を聞きます。修繕の遅れなど具体的な問題があれば、対応の予定を伝えます。
  • 連絡を望まない人:個別の連絡はせず、回答の内容を業務の改善に使います。連絡しないでほしいという意思を尊重します。
  • 中立者・推奨者:自由記述に改善の手がかりが書かれていることがあります。点数が高くても読み飛ばさないようにします。

回答を理由に、入居者を不利に扱うことはしません。点数の低い回答が出た建物ほど、改善の材料が多いと考えます。結果は、個人が分からない形にまとめて、入居者やオーナーへの報告にも使えます。「いただいた声をもとに、ごみ置き場の清掃の回数を見直しました」のように、何を変えたかを伝えると、次の調査にも協力してもらいやすくなります。

回答と対応の記録は、お客様ごとに残しておくと、次の担当者にも経緯が伝わります。ウルスタくんの顧客管理では、お客様ごとの対応の履歴をまとめて残せます。どの道具を使う場合も、回答をどこに保存し、誰が見られるかを先に決めておくことが前提です。

筆者は宅地建物取引士で、自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を自主管理しています。物件を持つ立場からも、入居者の声を定期的に聞く仕組みは、修繕や設備の判断の材料になると考えています。

自社で始める手順

最後に、自社で始めるときの手順をまとめます。

  1. 対象(入居者、オーナー、仲介のお客様)と、聞く時期を決める。
  2. 質問を3つ程度に絞り、言い回しを固定する。次回以降も同じ言い回しを使う。
  3. 利用目的の文と、連絡してよいかを聞く質問を入れる。
  4. 依頼メールに広告や宣伝を入れるかどうかを決め、入れる場合は特定電子メール法の義務を確かめる。
  5. 集計の表を用意し、回答数とNPSを同時に出す。
  6. 批判者で連絡を望む人への対応の担当者と期限を決める。
  7. 結果と改善したことを、個人が分からない形でお客様に伝える。

追客全体の仕組みは管理会社の追客の漏れを防ぐ方法、顧客管理の考え方は不動産会社の顧客管理の進め方、お客様の体験の見直しは顧客体験の改善の進め方も参考にしてください。

よくある質問

Q1. 無記名のアンケートなら個人情報の配慮は要りませんか。

氏名を書かなくても、部屋番号やメールアドレス、回答の時期などから入居者名簿と照合できるなら、個人情報に当たる可能性があります。個人情報保護法2条1項は、他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できるものを個人情報に含めています。照合できる形で集める場合は、利用目的を示して扱います。

Q2. 回答のお礼に謝礼を渡してもよいですか。

謝礼を渡すかどうかは会社の判断です。ただし、謝礼を目当てに回答する人が増えると、回答の傾向が変わることがあります。謝礼の有無を途中で変えると前回との比較が難しくなるため、続けるかどうかを最初に決めておきます。謝礼の案内を依頼メールに書く場合は、広告や宣伝に当たる内容にならないよう注意します。

Q3. NPSの目標値はいくつにすればよいですか。

他社や業界の数字は条件が違うため、目標の根拠にしにくい面があります。最初の調査の値を基準にして、同じ条件で繰り返し測り、回答数とあわせて変化を見るほうが現実的です。値そのものより、批判者の理由を減らす取り組みを目標にする方法もあります。

Q4. 自由記述をオーナーに見せてもよいですか。

利用目的にオーナーへの報告を含めていれば可能です。その場合も、部屋番号や氏名が分かる書き方を避け、個人が特定されないよう表現を整えてから渡します。利用目的に含めていない場合は、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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