不動産会社の業務改善 読了 13分

パートナー企業・協力業者(修繕・清掃)との価格の決め方|取適法・建設業法と管理受託契約で整理

協力業者との価格は、原価の内訳を見て単価を決め、発注内容を書面で残し、値上げの相談には協議で応じるのが基本です。取適法(2026年1月1日施行)、建設業法19条、標準管理受託契約書の修繕ルールをもとに手順を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
パートナー企業・協力業者との価格の決め方|取適法・建設業法と管理受託契約で整理
目次

協力業者(修繕・清掃など)との価格は、原価の内訳を見て単価を決め、発注の内容と金額を書面で残し、値上げの相談には協議で応じる形にするのが基本です。清掃などの業務委託には2026年1月1日施行の取適法が、修繕工事には建設業法19条(書面による契約)がかかる場合があります。オーナーとの間では、管理受託契約で決めた修繕の承認ルールに沿って動きます。

協力業者との価格を「仕組み」で決める理由

賃貸管理では、退去後の原状回復、設備の修理、共用部の清掃など、多くの作業を協力業者に頼みます。価格を担当者の交渉だけで決めていると、案件ごとに単価がばらつき、オーナーに金額の根拠を説明しにくくなります。

一方で、相見積もりで毎回いちばん安い業者に切り替えるやり方は、法律の面でも注意が必要です。2026年1月1日から、下請法を改めた「取適法」が施行され、受注側からの価格協議に応じないまま一方的に代金を決めることが禁止行為に加わりました。修繕工事では、建設業法が契約書面の作成や、原価に満たない金額での契約を禁じています。

価格の決め方を仕組みにしておくと、法令に沿いやすく、オーナーへの説明もしやすく、業者との関係も続けやすくなります。

取引の種類ごとにかかる法律

管理会社と協力業者の取引は、作業の中身によってかかる法律が変わります。

取引の例主にかかる法律・ルールポイント
共用部の清掃、定期点検などの業務委託取適法(役務提供委託にあたる場合)資本金・従業員数の基準を満たすと対象。発注内容の明示、60日以内の支払など
原状回復工事、設備交換などの修繕工事建設業法19条で契約内容を書面に記載して相互に交付。19条の3で原価割れの請負代金を禁止
修繕の実施と費用負担(オーナーとの関係)管理受託契約(国交省の賃貸住宅標準管理受託契約書がひな形)一定額を超える修繕は事前にオーナーと協議するなど

取適法の役務提供委託の定義からは、建設業を営む者が請け負った建設工事を他の建設業者に請け負わせる取引が除かれています(取適法2条4項)。工事の取引は建設業法の側で規律される、という整理です。

取適法(旧下請法)の要点

正式名称と施行日

正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称は取適法です。2026年1月1日に施行されました。下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改正したもので、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」と呼び名が変わりました。

どんな取引が対象か

対象の取引は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託です。役務提供委託は「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」と定義されています(2条4項)。管理会社がオーナーから受託した管理業務のうち、清掃などの一部を他社に委託する取引は、この形に当てはまる可能性があります。

役務提供委託で対象になるのは、次の組み合わせです(2条)。

委託事業者(発注する側)中小受託事業者(受ける側)
資本金5,000万円超の法人個人、または資本金5,000万円以下の法人
資本金1,000万円超5,000万円以下の法人個人、または資本金1,000万円以下の法人
常時使用する従業員が100人超の法人常時使用する従業員が100人以下の個人または法人

今回の改正で従業員数の基準が加わったため、資本金が小さくても従業員の多い会社は対象になり得ます。自社が当てはまるかは、公正取引委員会の「取適法簡易診断」で確かめられます。

委託事業者の主な義務

  • 発注内容の明示(4条):委託したら直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを書面または電磁的方法で明示します。電磁的方法で明示した場合でも、相手から書面を求められたら遅滞なく交付します。
  • 支払期日(3条):給付を受領した日から60日の期間内で、できる限り短い期間内に支払期日を定めます。

禁止されている主な行為

  • 通常支払われる対価に比べて著しく低い代金の額を不当に定めること(5条1項5号)
  • 発注後に代金の額を減らすこと(5条1項3号。受託側の責めに帰すべき理由がない場合)
  • 費用の変動などで受託側が代金の協議を求めたのに、協議に応じない、または必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に代金の額を決めること(5条2項4号)
  • 手形による代金の支払、振込手数料を受託側に負担させること(公正取引委員会のリーフレットで違反になると説明されています)

「業者から値上げの相談があったら、まず協議の場をつくり、こちらの考えと根拠を説明する」という手順を社内で決めておくと、5条2項4号への備えになります。

修繕工事と建設業法19条

建設業法19条1項は、建設工事の請負契約の当事者に、契約の締結に際して決められた事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することを求めています。記載事項は、工事内容、請負代金の額、工事の着手と完成の時期、価格等の変動に応じた請負代金や工事内容の変更、検査と引渡しの時期、請負代金の支払の時期と方法など、16の項目です。

契約内容を変えるときも、変更の内容を書面に記載して相互に交付します(19条2項)。相手方の承諾を得れば、電子的な方法に代えることもできます(19条3項)。

金額については19条の3があります。注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結んではなりません(1項)。建設業者の側も、正当な理由がある場合を除き、原価に満たない金額で請け負ってはならないとされています(2項)。

原状回復のように少額で件数の多い工事でも、口頭やメッセージだけで発注を済ませず、単価表と発注書(注文書・請書)をそろえる運用にしておくと、19条の書面の要件を満たしやすくなります。

オーナーとの約束:標準管理受託契約書の修繕ルール

協力業者に払う修繕費は、最終的にはオーナーが負担することがほとんどです。国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」は、修繕について次のような決まりを置いています。

  • 少額の修繕(6条2項):1件あたりの金額が、オーナーと管理会社が協議して頭書に定めた金額を超えないものは、オーナーの承諾を要しません。超えるものは、あらかじめオーナーと協議しなければなりません。コメントでは、少額の費用までオーナーの承諾を求めると迅速な業務の執行に支障をきたすおそれがあるため、と理由が説明されています。
  • 緊急時(11条):災害や事故などで緊急に行う必要があり、オーナーの承認を受ける時間的な余裕がない業務は、承認なしで実施できます。その場合は、速やかに書面で業務の内容と費用の額をオーナーに通知します。
  • 再委託(13条):管理業務の一部は、頭書の定めに従って他の者に再委託できますが、一括して他の者に委託することはできません。

また、賃貸住宅管理業法の施行規則31条は、管理受託契約の締結前に説明する事項として「報酬に含まれていない管理業務に関する費用であって、賃貸住宅管理業者が通常必要とするもの」や「管理業務の一部の再委託に関する事項」を挙げています。協力業者への発注の流れと費用の扱いは、契約前の説明の段階でオーナーと共有しておく項目です。

オーナーへの説明では、修繕費を差し引いた送金の明細が根拠になります。ウルスタくんでは、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を作れるので、どの工事にいくらかかったかを明細で示せます。

単価の決め方と見直しの手順

手順1:作業を項目に分けて単価表をつくる

クロス張替え(1平方メートルあたり)、ハウスクリーニング(間取りごと)、共用部清掃(1回あたり)など、よく発注する作業を項目に分け、業者ごとの単価表をつくります。単価表は発注書に添付するか、発注書から参照できるようにします。

手順2:原価の内訳を出してもらう

単価を決めるときは、材料費、施工の手間、運搬、諸経費の内訳を業者に出してもらいます。内訳が分かると、資材の値上がりなどで見直しを求められたときに、どの部分がどれだけ変わったかを話し合えます。

仮の数字で計算例を示します。ある作業の1平方メートルあたりの材料費が400円、施工の手間が500円、運搬・諸経費が100円なら、原価は1,000円です。ここに業者の利益を乗せて単価を決めます。材料費が1割上がれば原価は40円上がる、というように、変動の幅を内訳で確かめられます。

手順3:発注のたびに内容と金額を明示する

発注書には、作業の内容、金額、支払期日、支払方法を書きます。取適法の対象になる取引では4条の明示事項、工事なら建設業法19条の記載事項を満たす様式にしておきます。

手順4:見直しの時期と窓口を決める

単価の見直しは、年1回など時期を決めて行い、それ以外でも業者から協議の申し出があれば受ける窓口を決めておきます。協議の記録(日付、相手の説明、こちらの回答と根拠)を残すと、一方的に決めたのではないことを後から示せます。

手順5:支払サイトを決めて守る

締め日と支払日を決め、受領から60日以内に払う形にします。手形は使わず、振込手数料は発注側で負担します。

避けたい値決め

  • 相見積もりの最安値を示して、内訳を聞かずに一律の値下げを求める
  • 値上げの相談を受けても返事をしないまま、従来の単価で発注を続ける
  • 作業の完了後に、理由を示さず請求額から差し引く
  • 工事を口頭だけで発注し、書面を残さない

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 小さな管理会社でも取適法の対象になりますか。

役務提供委託の場合、発注する側の資本金が1,000万円以下で、常時使用する従業員が100人以下なら、2条の基準からは委託事業者にあたりません。ただし、資本金と従業員数の両方の基準があるため、公正取引委員会の簡易診断で確かめるのが確実です。対象外でも、建設工事なら建設業法19条・19条の3はかかります。

Q2. 業者から値上げを求められたら、応じないといけませんか。

取適法が求めているのは、協議に応じ、必要な説明や情報提供をすることです。値上げの額をそのまま受け入れる義務までは書かれていません。内訳を出してもらい、こちらの考えと根拠を説明したうえで、合意した単価を書面に残します。

Q3. 原状回復の小さな工事でも契約書は必要ですか。

建設業法19条は建設工事の請負契約に書面での記載と交付を求めており、金額による除外は条文にありません。件数が多い場合は、基本契約と単価表を結び、個別の発注は注文書と請書でやりとりする形が実務的です。

Q4. 修繕費の上限額はオーナーとどう決めればよいですか。

標準管理受託契約書では、1件あたりの金額の上限をオーナーと協議して頭書に書き、それを超える修繕は事前に協議するとしています。上限額はオーナーの意向と物件の状況で決めるもので、決まった相場はありません。

関連記事:外部業者のKPI管理、協力業者のオンボーディング、オーナーへの修繕費の説明、経営指標を同業と比べる方法

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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