顧客の分類(セグメント)は、AIを使うかどうかより先に、分類ごとに「次に何を、いつまでにするか」を決めておくことで初めて役に立ちます。分類の基準は、お客様が話した事実(入居の希望時期、条件の具体性、連絡の状況など)で作り、病歴や信条などの要配慮個人情報は使いません。この記事では、不動産会社の反響を分類する基準の作り方、分類と次の行動の対応表、個人情報保護法で確かめること、AIを補助に使う場合の注意点を順に説明します。
顧客を分類する目的
反響(問い合わせ)が重なると、担当者は「どのお客様から返信するか」を毎回その場で判断することになります。判断の基準が人によって違うと、急いでいるお客様への返信が後回しになったり、同じお客様に2人が連絡したりします。
顧客の分類は、この判断を前もって決めておくための道具です。目的は「お客様に点数をつけること」ではなく、「対応の順番と次の行動をそろえること」です。分類しても次の行動が決まっていなければ、一覧に記号が増えるだけで、対応は変わりません。
分類は、賃貸の入居希望者だけでなく、売買の検討者、管理を任せてくれているオーナー、管理物件の入居者にも使えます。ただし、相手によって次の行動がまったく違うため、まず「誰を分類するのか」を1つに絞って始めるのが現実的です。この記事では、賃貸の入居希望者からの反響を例に説明します。
分類の軸の決め方
分類の軸は、お客様とのやり取りで確かめられる事実から選びます。担当者の印象(「感じがよい」「本気そう」)を軸にすると、人によって判断が分かれ、あとで見直すこともできません。
入居希望者の反響では、次のような軸が使いやすいと考えます。どれも、問い合わせの文面や最初の電話で確かめられるものです。
| 軸 | 確かめ方 | 記録の例 |
|---|---|---|
| 入居の希望時期 | 「いつごろ住み始めたいか」を聞く | 今月中/2か月以内/未定 |
| 条件の具体性 | エリア、家賃の上限、間取り、必須の設備がそろっているか | 条件がそろっている/一部だけ/未定 |
| 内見の希望 | 内見の希望日が出ているか | 希望日あり/検討中/希望なし |
| 連絡の状況 | 返信があったか、連絡の手段と時間帯の希望 | 返信あり/未返信/連絡がつかない |
| 紹介できる物件との一致 | 条件に合う物件を自社で紹介できるか | 合う物件あり/条件の調整が必要/紹介できる物件なし |
軸は多くしすぎないことが大切です。項目が増えると入力が追いつかず、空欄が増えて分類そのものが使えなくなります。最初は2つか3つの軸で始め、足りないと分かったときに増やします。
「家賃の上限」は分類の軸ではなく、物件を探すための条件として別の欄に残すほうが扱いやすいです。家賃が高いお客様を優先する、という分類にすると、条件に合う物件を早く紹介するという本来の目的から外れやすくなります。
分類と次の行動の対応表
軸を決めたら、組み合わせで分類を作り、分類ごとに次の行動と期限を決めます。期限の長さは会社の体制で変わるため、下の表では「社内で決める」としています。大切なのは、分類を見れば次の行動が誰でも分かることです。
| 分類 | 決め方の例 | 次の行動 | 期限 |
|---|---|---|---|
| すぐ対応 | 希望時期が近く、条件がそろい、内見の希望日がある | 電話で内見日時を確定し、物件の空き状況を確かめる | 当日中など、社内で決める |
| 提案 | 条件はそろっているが、希望時期に少し余裕がある | 条件に合う物件を数件選んで送り、内見の希望を聞く | 社内で決める |
| 条件の確認 | 条件の一部が未定、または合う物件がない | 条件の優先順位を聞き、調整できる点を相談する | 社内で決める |
| 情報提供 | 希望時期が未定で、情報を集めている段階 | 希望を聞いたうえで、次に連絡する時期を本人と決める | 本人と決めた時期 |
| 保留 | 連絡がつかない、または本人から連絡不要の申出がある | 連絡不要の申出があれば連絡を止め、その旨を記録する | なし |
分類の名前は、記号(A・B・C)より、次の行動が分かる言葉にしておくと、新しい担当者でも迷いません。記号を使う場合も、表のように「決め方」と「次の行動」を文章で残しておきます。
分類は一度つけたら終わりではありません。お客様の状況は変わります。返信があった、内見の日が決まった、希望時期が延びた、といった変化があれば、その時点で分類をつけ直します。
分類に使わない情報
分類の基準を作るときに、まず決めておくべきなのは「使わない情報」です。
要配慮個人情報は分類に使わない
個人情報保護法2条3項は、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実など、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように取扱いに特に配慮を要するものを「要配慮個人情報」と定めています。個人情報保護委員会の通則編ガイドラインでは、政令で定めるものとして、心身の機能の障害があること、健康診断等の結果、診療が行われたこと、刑事事件や少年の保護事件の手続が行われたことなども挙げています。
同法20条2項は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないと定めています。反響の分類は、要配慮個人情報がなくても作れます。分類の項目に入れないこと、自由記述の欄にも書かないことを社内のルールにしておきます。
お部屋探しでは、お客様が自分から事情を話すことがあります。物件探しに必要な範囲(たとえば段差の少ない部屋を探している、など)は物件の条件として記録し、その理由まで分類の材料にはしない、という線の引き方が考えられます。扱いに迷うときは、ガイドラインを確かめたうえで、社内の責任者が判断します。
国籍や年齢で優先度を変えない
通則編ガイドラインは、単純な国籍や「外国人」という情報は法的地位であり、それだけでは人種には含まないとしています。ただし、要配慮個人情報に当たらないことと、分類の基準に使ってよいことは別の話です。国籍や年齢などで対応の順番を変えると、公平な対応から外れ、お客様の不利益につながるおそれがあります。分類は、希望時期や条件といった、お部屋探しの進み具合を表す事実だけで作るのが安全です。
不適正な利用の禁止
個人情報保護法19条は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならないと定めています。分類の結果を、特定のお客様を不当に扱うための材料にしないことも、基準を作る段階で確認しておきます。
利用目的の特定と通知
顧客の分類は、取得した個人情報を使う行為です。個人情報保護法17条1項は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならないと定めています。18条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないと定めています。
21条1項は、個人情報を取得した場合は、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、又は公表しなければならないとしています。また21条2項は、申込書などの書面(電磁的記録を含む)で本人から直接個人情報を取得する場合は、あらかじめ本人に利用目的を明示しなければならないとしています。
実務では、次の点を確かめておきます。
- ホームページのプライバシーポリシーに、物件の紹介、内見の調整、契約手続、お客様への連絡など、反響の情報を使う目的が書かれているか。
- 問い合わせフォームや申込書に、利用目的を示す文言またはポリシーへのリンクがあるか。
- 分類の結果を、もともとの目的と関係のない用途(別事業の宣伝など)に使っていないか。17条2項は、利用目的の変更は変更前の目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えてはならないとしています。
利用目的の書き方は会社ごとに異なります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)で考え方を確かめ、必要に応じて専門家に相談してください。
AIを補助に使う場合の注意点
分類は、人が基準に沿って判断するだけで十分に運用できます。生成AIなどの道具は、問い合わせの文面から希望時期や条件を読み取って下書きを作る、といった補助に使える場面がありますが、使わなくても分類の質は落ちません。使うかどうかは、件数と社内の体制で決めます。
使う場合は、個人情報保護委員会が2023年6月2日に公表した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を確かめます。この中で、個人情報取扱事業者に対しては、次の2点が示されています。
- 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。
- 本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、サービスを提供する事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
このほか、実務では次のような使い方が考えられます。
- 氏名、電話番号、メールアドレスを除いた本文だけを入力する。
- 出てきた分類は下書きとして扱い、担当者が基準表と照らして確定する。
- 分類の理由を短く記録し、あとで基準どおりだったかを見直せるようにする。
- 要配慮個人情報が含まれる文面は入力しない。
道具が出した分類をそのまま使うと、なぜその分類になったのかを社内で説明できなくなります。最終的な判断は人が行い、基準表を更新するのも人が行う、という役割分担にしておきます。
分類を始める手順
次の手順は、新しい道具を入れなくても、表計算ソフトや今使っている顧客管理の仕組みで始められる形にしています。
手順1:過去の反響を読み返す
直近の反響をいくつか読み返し、内見や申込に進んだお客様と、連絡が途絶えたお客様で、最初のやり取りに違いがあったかを見ます。ここで見つけた違いが、分類の軸の候補になります。件数が少なくても、軸の候補を出すには役に立ちます。
手順2:軸と分類を文章で決める
軸を2つか3つに絞り、分類ごとの「決め方」を文章で書きます。「希望時期が今月中で、内見の希望日がある」のように、誰が読んでも同じ判断になる書き方にします。
手順3:分類ごとの次の行動と期限を決める
対応表を作り、分類ごとに次の行動と期限を決めます。期限は、今の人数で守れる長さにします。守れない期限を決めると、表が形だけになります。
手順4:記録の欄を用意する
顧客の一覧に「分類」「次の行動」「期限」「分類をつけた日」「担当」の欄を用意します。ウルスタくんの顧客管理では、お客様ごとの情報と対応の履歴を残せるので、こうした欄を決めて運用できます。どの道具を使う場合も、空欄にしない項目を最初に決めておくことが続けるための前提です。
手順5:毎朝、期限の来た行動を確かめる
分類の効き目は、期限どおりに次の行動がされているかで決まります。朝の確認で、期限が今日まで、または過ぎているお客様を一覧で見て、担当を割り振ります。
分類の見直しと記録の整理
分類の基準は、使いながら直していくものです。月に1度など時期を決めて、次の点を見直します。
- 「すぐ対応」に分類したお客様が、実際に内見や申込に進んでいたか。
- 「情報提供」に分類したお客様の中に、すぐに動いていたお客様がいなかったか。
- 担当者によって、同じ状況のお客様の分類が分かれていなかったか。
- 期限を過ぎた行動が多い分類はないか(期限の長さか人の配置を見直す)。
見直しの結果は、基準表の改訂として日付つきで残します。いつ、なぜ基準を変えたかが分かれば、担当者が替わっても運用を引き継げます。
記録の整理も同時に行います。個人情報保護法22条は、利用目的の達成に必要な範囲内において個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないとしています。連絡不要の申出があったお客様や、長く連絡のないお客様の情報をどう扱うかを、保存の期間とあわせて社内で決めておきます。また23条は、個人データの漏えい等の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならないとしています。分類の一覧を誰が見られるか、持ち出せるかも決めておきます。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 分類にAIを使わないと、件数が多いときに追いつきませんか。
分類の基準が文章で決まっていれば、1件ごとの判断は短い時間で済みます。追いつかない原因が分類ではなく、分類のあとの返信や内見の調整にあることも多いため、まず期限を過ぎている行動がどこで止まっているかを確かめてください。道具を使う場合も、最終の判断は人が行う前提で考えます。
Q2. 分類は何段階に分ければよいですか。
決まった数はありません。次の行動が違うものだけを分けるのが基本です。行動が同じになる分類が2つあるなら、1つにまとめます。この記事の表は5つの例ですが、始めは3つ程度でも運用できます。
Q3. 問い合わせフォームに利用目的を書いていない場合はどうすればよいですか。
個人情報保護法21条により、取得した個人情報の利用目的は、あらかじめ公表しておくか、取得後速やかに本人に通知又は公表する必要があります。フォームから直接書面で取得する場合は、あらかじめ明示が必要です。プライバシーポリシーの整備とあわせて、フォームの文言を見直してください。
Q4. お客様が自分から持病の話をしたときは、記録してよいですか。
病歴は要配慮個人情報に当たります。物件探しに必要な条件(たとえば設備の希望)だけを条件として記録し、理由の詳細は記録しない、という扱いが考えられます。記録が必要な場合の取得の同意など、扱いに迷うときは個人情報保護委員会のガイドラインを確かめ、社内の責任者が判断してください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第2条第3項・第17条・第18条・第19条・第20条第2項・第21条・第22条・第23条)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(2-3 要配慮個人情報)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(別添1)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。