不動産仲介の業務効率化は、各工程を「宅建業法などで決まっている手順」と「社内で決めればよい手順」に分けることから始めます。法定の手順は省けないので、書式・期限の管理・電子化で確実に速く回し、社内の手順は1件ごとの台帳にまとめて重複入力を減らします。この記事では、広告、媒介契約とレインズ登録、重要事項説明、37条書面、帳簿の順に、条文と国土交通省の資料で確かめた手順を整理します。
工程ごとに法律で決まっている手順
効率化で最初にやることは、今の仕事を工程ごとに書き出し、法律で決まっている部分に印を付けることです。決まっている部分は「やるかどうか」ではなく「どう確実に速くやるか」を考え、決まっていない部分は、やめる・まとめる・後回しにするを検討します。
| 工程 | 根拠 | 決まっていること |
|---|---|---|
| 広告 | 宅建業法第32条・第33条・第34条第1項 | 誇大広告の禁止、未完成物件の広告開始時期、取引態様の明示 |
| 注文の受付 | 宅建業法第34条第2項 | 注文を受けたら遅滞なく取引態様の別を明らかにする |
| 媒介契約(売買・交換) | 宅建業法第34条の2 | 書面の交付(電磁的方法も可)、専任媒介の有効期間、指定流通機構への登録、報告 |
| 重要事項説明 | 宅建業法第35条 | 契約成立までに宅建士が書面を交付して説明、宅建士証の提示、記名 |
| 契約締結時の書面 | 宅建業法第37条 | 書面の交付、宅建士の記名、電磁的方法による提供は承諾が必要 |
| 帳簿 | 宅建業法第49条、同法施行規則第18条 | 事務所ごとに備え、取引のつど記載し、閉鎖後5年間(自ら売主の新築住宅は10年間)保存 |
この一覧を社内で共有しておくと、「どこまでなら省いてよいか」の議論が早く終わります。以下、工程ごとに見ていきます。
広告と反響対応
誇大広告の禁止と取引態様の明示
宅建業法第32条は、広告で、物件の所在・規模・形質、利用の制限、環境・交通その他の利便、代金・借賃などの対価の額や支払方法などについて、著しく事実に相違する表示や、実際のものより著しく優良・有利であると人を誤認させるような表示を禁じています。第34条第1項は、売買・交換・貸借の広告をするときに、自ら当事者となるのか、代理なのか、媒介なのかという取引態様の別を明示することを求めています。第33条は、工事完了前の物件について、開発許可や建築確認などの処分があった後でなければ広告をしてはならないと定めています。
おとり広告と、成約後の掲載
公益社団法人全日本不動産協会の解説では、不動産の表示に関する公正競争規約が禁じる「おとり広告」として、物件が存在しないため実際には取引できない物件、存在するが実際には取引の対象となり得ない物件、存在するが実際には取引する意思がない物件の3つの表示が挙げられています。同じ解説は、契約が成立して広告から削除すべき物件をそのまま残していることもおとり広告規制に違反し、重大なルール違反だとしています。
効率化の観点では、成約や申込みの状況を物件の台帳で更新したら、同じ担当者が同じ日に掲載の停止まで行う流れにしておくと、削除漏れを防げます。掲載中の物件の一覧と台帳の状況を照らし合わせる作業を、週や月の決まった日に入れておくのも1つの方法です。
反響への最初の返信
反響への返信は、法令で期限が決まっている作業ではありません。返信の文面を物件の種類ごとにひな形にし、取引態様や物件の状況(申込みが入っているかなど)を台帳から確かめてから返す手順にすると、速さと正確さを両立しやすくなります。
売買の媒介契約とレインズ登録・報告
宅建業法第34条の2は、宅地・建物の売買または交換の媒介契約について定めています。貸借の媒介には適用されない点に注意してください。
書面と有効期間
媒介契約を締結したときは、遅滞なく、物件を特定する表示、売買すべき価額または評価額、他の業者への重ねての依頼の許否、既存建物の場合の建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項、有効期間と解除、指定流通機構への登録、報酬などを記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付します(第1項)。価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにします(第2項)。依頼者の承諾を得れば、書面の交付に代えて電磁的方法で提供できます(第11項)。
専任媒介契約の有効期間は3か月を超えることができず、長く定めても3か月になります(第3項)。更新は依頼者の申出によるもので、更新の時から3か月を超えられません(第4項)。
指定流通機構(レインズ)への登録の期限
専任媒介契約を締結したときは、国土交通省令で定める期間内に、物件の所在・規模・形質・売買すべき価額などを指定流通機構に登録します(第5項)。宅建業法施行規則第15条の10により、その期間は専任媒介契約の締結の日から7日(専属専任媒介契約は5日)で、休業日数は算入しません。カレンダー上の日数ではないので、事務所の休業日を台帳に設定し、期限を機械的に出せるようにしておくと、担当者ごとの数え違いを防げます。
登録事項には、法令上の制限で主要なもの、取引の申込みの受付に関する状況、交換の場合の評価額、専属専任媒介契約である場合はその旨が含まれます(施行規則第15条の11第1項)。申込みの受付状況が変わったときに登録内容も直す流れを、社内の手順に組み込んでおきます。
登録後の書面と報告
| やること | 期限・頻度 | 根拠 |
|---|---|---|
| 登録を証する書面を依頼者に引き渡す | 遅滞なく(承諾を得て電磁的方法も可) | 第34条の2第6項・第12項 |
| 売買・交換の契約が成立したことを指定流通機構に通知する | 遅滞なく | 第34条の2第7項 |
| 売買・交換の申込みがあったことを依頼者に報告する | 遅滞なく | 第34条の2第8項 |
| 専任媒介契約の業務の処理状況を依頼者に報告する | 2週間に1回以上 | 第34条の2第9項 |
第34条の2第10項により、第3項から第6項まで、第8項と第9項の規定に反する特約は無効です。報告の頻度を契約で緩めることはできないので、報告の文面をひな形にし、送った日付を台帳に残す形で手間を減らします。
重要事項説明の電子化とIT重説
宅建士でなければできないこと
宅建業法第35条第1項は、売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に、重要事項を記載した書面を交付して説明させることを求めています。説明のときは宅建士証を提示し(第4項)、書面には宅建士が記名します(第5項)。逆に言えば、資料の取り寄せや書面の下書き、日程の調整は、宅建士でない事務スタッフでも担えます。役割を分けると、宅建士の時間を説明と確認に集められます。
| 作業 | 担当 |
|---|---|
| 登記事項証明書・法令上の制限・インフラなどの調査資料の取り寄せ | 事務スタッフでも可(内容の確認は宅建士) |
| 重要事項説明書の下書き | 事務スタッフでも可(最終確認は宅建士) |
| 書面への記名 | 宅建士(第35条第5項) |
| 説明と宅建士証の提示 | 宅建士(第35条第1項・第4項) |
電磁的方法による提供
第35条第8項により、相手方の承諾を得れば、宅建士に、書面に記載すべき事項を電磁的方法で提供させることができます。国土交通省は、書面の電子化を可能にする改正を令和4年5月18日から施行しました。同省の発表では、電子書面は書面に出力できることと、電子署名等により改変が行われていないかどうかを確認できることが求められ、承諾は電子メール、Webページ上の回答フォーム、USBメモリ等の交付などで得られます。
IT重説で確かめること
国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」(令和6年12月版)では、次のような点が示されています。
- 内容を十分に理解できる程度に映像を視認でき、音声を聞き取ることができ、双方向でやり取りできる環境で行う
- 実施に先立ち、宅建士が記名した重要事項説明書と添付書類を相手方に送付しておく
- 開始前に、相手方の映像・音声を確認でき、送付した書面が相手方の手元にあることを確かめる
- 相手方が宅建士証を視認できたことを確かめる
- 映像の視認や音声の聞き取りに支障が生じたときは、宅建士はIT重説を中断する
- 相手方は承諾した後でも、電子書面による提供を拒否する旨を申し出ることができる
これらを開始前の確認表にして毎回読み上げる形にすると、担当者が変わっても手順がそろいます。IT重説の詳しい手順はIT重説の解説にまとめています。
37条書面と帳簿
37条書面
宅建業法第37条は、売買・交換の契約(第1項)と、貸借の契約(第2項)について、契約が成立したときに、相手方や各当事者に書面を交付することを求めています。書面には宅建士が記名します(第3項)。相手方の承諾を得れば、書面の交付に代えて電磁的方法で提供できます(第4項・第5項)。重要事項説明書と37条書面は記載事項が重なる部分があるので、同じ台帳の情報から両方を作る形にすると、転記の誤りを減らせます。
帳簿の電子化と保存
宅建業法第49条は、事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のつど、年月日、物件の所在・面積などを記載することを求めています。施行規則第18条第1項は、売買・交換か、売買・交換・貸借の代理・媒介かの別、当事者の氏名・住所、関与した他の業者、物件の概況、売買金額や賃料、報酬の額などを記載事項として挙げています。
同条第2項により、電子計算機のファイルなどに記録し、必要に応じてその事務所で紙面に明確に表示できるときは、その記録を帳簿への記載に代えられます。帳簿は各事業年度の末日で閉鎖し、閉鎖後5年間(自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)保存します(同条第3項)。案件の台帳に帳簿の記載事項を入れておけば、取引のたびに別の帳簿へ書き写す手間を省けます。
効率化の進め方の手順例
次は、仲介の業務を見直すときの進め方の例です。効果は会社の規模や扱う物件で変わるので、まず1つの工程で試し、手順がそろってから広げます。
- 直近の案件を1件選び、反響から引渡しまでの作業を、担当者・使った書式・かかった手間とともに書き出す
- 各作業に、法定の手順かどうかの印を付ける(本記事の一覧を使う)
- 同じ情報を何度も入力している作業を見つけ、1件1台帳にまとめる
- レインズ登録や専任媒介の報告など、期限のある作業を台帳の日付から自動で出せるようにする
- 電子書面を使う場合は、承諾の取得と記録の手順を決め、紙を希望する相手方への対応も残しておく
- 月に1回、掲載中の広告と成約状況、レインズの登録内容、帳簿の記載を照らし合わせる
ウルスタくんでできること
ウルスタくんには、顧客管理、物件・入居者の管理、募集図面(マイソク)の作成、業者間流通(ウルスタBB)、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類の作成と電子サインの機能があります。物件と顧客の情報を一か所にまとめ、書類の作成に同じ情報を使うことで、転記の手間と誤りを減らす使い方ができます。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 賃貸の媒介でもレインズへの登録義務はありますか。
宅建業法第34条の2の登録義務は、売買または交換の専任媒介契約についての定めです。賃貸の媒介には同条は適用されません。
Q2. 重要事項説明書を電子で渡すのに、相手の承諾は要りますか。
要ります。宅建業法第35条第8項は、相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できると定めています。承諾は電子メールやWebの回答フォームなどで得られ、相手方は後から電子書面での提供を拒否する旨を申し出ることもできます。
Q3. 重要事項説明の準備を事務スタッフに任せてもよいですか。
資料の取り寄せや下書きは任せられます。説明、宅建士証の提示、書面への記名は宅建士が行います(宅建業法第35条第1項・第4項・第5項)。
Q4. 帳簿はパソコンのデータだけで足りますか。
宅建業法施行規則第18条第2項により、ファイルなどに記録し、必要に応じて事務所で紙面に明確に表示できれば、帳簿への記載に代えられます。閉鎖後5年間(自ら売主の新築住宅は10年間)の保存が必要です。
Q5. 成約した物件の広告をしばらく残しておいてもよいですか。
全日本不動産協会の解説では、契約が成立して削除すべき物件を残しておくことはおとり広告規制に違反するとしています。成約や申込みの状況を更新したら、同じ日に掲載を止める手順にしてください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第32条〜第35条、第37条、第49条
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」第15条の10、第15条の11、第18条
- 国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」
- 国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」(令和6年12月版)
- 国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。」(令和4年4月27日)
- 公益社団法人全日本不動産協会「おとり広告」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。