賃貸管理 読了 40分

【2026年4月】省エネ基準義務化|中規模オーナーへの提案チャンス・提案実務・提案

2026年4月1日、建築基準法改正に伴い、新築建築物に対する省エネ基準の適用要件が拡大・厳格化されます。この制度改正は新築に限らず、既存建築物を保有するオーナーにも「対応検討」を促す重要な転換点となります。本記事では、省エネ基準厳格化によるオーナーの提案機会を、対象建築物特定から収支試算までの完全フローで解説します。

ULSAPO編集部
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
省エネ基準 義務化 2026年4月
目次
1. 省エネ基準の適合義務化で来る相談 2. 2026年4月施行の省エネ基準義務化 — 現場目線で必要な3点 3. BEI値1.0達成のための5領域 — 築32年アパートの例 4. オーナー提案の窓改修の単独効果 — 161万円で何が起こったか 5. 提案書に入れておくべき構成 6. 補助金活用 — 中規模オーナーが見落としやすい4制度 7. 工事期間中の入居者対応 8. オーナー提案のBEI値計算の実務 — 自社で完結するか外注するか 9. 現場メモ — 判断材料を「選べる形」で出す 10. 私が他社と意見が違う点 — 「省エネ改修はオーナー利益にならない」論への反論 11. オーナー提案の関連記事 — あわせて読みたい 12. 高齢オーナーに段階的に提案する場合 13. 提案が通らないときに多い原因 14. 2026年下半期の見通し — 補助金枠と工務店繁忙 15. オーナー提案のよくある質問 FAQ|実務で押さえるべきポイント 16. 営業現場での提案タイミング — オーナーの判断モードを読む 17. オーナー提案の利益相反開示 — 馬場生悦 = ウルスタ 創業者 18. 中小不動産向けに提供。本格 業務 SaaS を月額980円(税抜)から。 19. オーナー提案のあわせて読みたい関連記事 (10 本) 20. よくある質問 FAQ|実務の疑問に答える 21. 出典・参考資料 22. よくある質問 23. あわせて読みたい記事
最終更新 | 著者: 馬場生悦 (宅建士)

公開:2026年5月16日 / 著者:馬場生悦(宅建士・ウルスタ創業者・不動産会社代表・自社210戸所有・)

省エネ基準の適合義務化で来る相談

2025年4月からの原則適合義務化以降、オーナーからは「自分の物件は建て替えや大規模改修のときに何が必要になるのか」という形で相談が来ます。まず確認するのは、工事の規模が適合義務の対象になるか、そして現状のBEIがどのあたりかの二点です。

建築確認を伴わない小規模な改修は対象外になるため、いきなり全面改修の話をせず、対象になるかどうかの切り分けから入るほうが話が進みます。

2026年4月施行の省エネ基準義務化 — 現場目線で必要な3点

制度の詳細解説は国土交通省のウェブサイトに譲るとして、中規模オーナーが押さえるべきは3点に絞られる。(1) 対象は原則すべての新築建築物(住宅・非住宅)。(2) 既存建築物の増改築は「増改築部分」のみが対象、ただし大規模改修(主要構造部の過半に及ぶもの)は全体が対象となる場合がある。(3) BEI値=1.0以下(=2016年省エネ基準と同等レベル)の達成が求められる。

中規模オーナーの典型物件は築20〜40年の木造または軽量鉄骨アパート。新築計画がない以上、(1) は無関係。問題は (2)。例えば外壁全面改修+屋根葺き替え+共用配管更新を同時に行う「フル大規模修繕」を計画するオーナーは少なくない。この規模が「主要構造部の過半」に該当するかは個別判断だが、安全側に倒すなら、断熱性能の同時引き上げを計画に組み込んでおくのが現実的。

BEI値1.0達成のための5領域 — 築32年アパートの例

BEIの現状診断は、省エネ計算を扱う設計事務所に依頼するのが一般的です。木造2階建てのアパート程度の規模であれば、図面と設備の仕様が揃っていれば数週間で結果が出ます。図面がない築古物件では、現地調査からになるため期間と費用が増えます。

(領域1)窓改修(全室・既存単板アルミサッシ→Low-E複層樹脂サッシ):工事費161万円・BEI改善寄与=▲0.21。(領域2)外壁断熱(吹付ウレタン50mm追加):工事費218万円・BEI改善寄与=▲0.18。(領域3)給湯器(全室・従来型→エコジョーズ):工事費87万円・BEI改善寄与=▲0.06。(領域4)照明(全室・蛍光灯→LED):工事費42万円・BEI改善寄与=▲0.04。(領域5)換気(全室・第三種→熱交換型第一種):工事費179万円・BEI改善寄与=▲0.03。

合計工事費=687万円・合計BEI改善寄与=▲0.52。改修後BEI=0.95。1.0以下を達成。1室あたり工事費=85.9万円。家賃平均6.2万円(改修前)。投資回収を後段で計算する。

オーナー提案の窓改修の単独効果 — 161万円で何が起こったか

窓の改修だけを先行して行い、入居者に前後の体感を聞くと、次の住戸に広げるときの説明材料になります。聞く項目は、寒さ・結露・外の音の3つに絞ると答えやすくなります。

「冬の朝、室温が改修前より3〜4度暖かい」=3/3部屋。「結露が劇的に減った」=3/3部屋。「外の騒音が小さくなった」=3/3部屋。「電気代が前月比で2,800円〜4,200円減った」=2/3部屋(残り1部屋は出張多く比較不能)。家賃改定の打診に対しては、3部屋中2部屋で「2,000円までなら受け入れる」との回答。改修費用161万円/3室=53.7万円/室。家賃+2,000円×12ヶ月=2.4万円/年。単純回収22.4年。

22年は長い。しかし、ここに「空室期間の短縮」と「修繕費の削減」が加わる。改修した3部屋は、過去5年の平均空室期間が47日だったが、改修後の入退去では平均19日に短縮。空室1ヶ月の機会損失=家賃6.2万円。年間で見ると、これだけで6万円/室の改善。回収期間は実質12〜14年に短縮される計算。

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提案書に入れておくべき構成

省エネ改修の提案書に必要なのは、現状の性能、改修後の想定性能、工事費の内訳、使える補助金、そして投資回収のシミュレーションです。回収年数は、家賃を上げる場合と据え置く場合の両方を出してください。

据え置きでも回収が成り立つ根拠は「将来の家賃下落を防ぐ」効果です。この説明があるかどうかで、判断のしやすさが変わります。

補助金活用 — 中規模オーナーが見落としやすい4制度

2026年5月時点で活用可能性の高い補助金は4制度。(1) 既存住宅における断熱リフォーム支援事業(環境省・最大120万円/戸)。(2) 高効率給湯器導入促進事業(経産省・エコジョーズ4万円/台等)。(3) こどもエコすまい支援事業の後継スキーム(2026年版・国交省)。(4) 各自治体独自(神奈川県内では横浜市・川崎市が断熱改修補助あり)。

補助金を使う場合、申請から交付決定まで数か月かかることがあります。着工は交付決定の後でなければ対象外になるため、工事のスケジュールは決定通知を待てる形で組んでください。

工事期間中の入居者対応

在館のまま行う改修では、騒音・断水・足場の設置について、着工の1か月前を目安に書面で案内します。工事の影響が大きい期間について家賃の減額を求められることがあるため、減額の要否と幅は着工前にオーナーと決めておいてください。

当日になってから個別に交渉すると、住戸ごとに条件が食い違い、後の苦情につながります。

オーナー提案のBEI値計算の実務 — 自社で完結するか外注するか

BEI値計算は専用ソフト(=国交省指定の住宅省エネルギー基準・一次エネルギー消費量計算プログラム)で行う。中規模管理会社にとって、これを内製化するか外注するかの判断は分かれる。私の結論は「年間5件以下なら外注、5件超なら内製を検討」。外注費は1棟あたり8万円〜15万円(首都圏相場)。内製化には専任スタッフ1名と研修費(約20万円)、初年度の習熟期間が必要。

BEIの計算は、社内で行うか外部に委託するかの二択になります。件数が少ないうちは、省エネ計算を扱う設計事務所に委託するほうが確実です。

現場メモ — 判断材料を「選べる形」で出す

省エネ改修の提案は、総額を先に見せると「予算的に厳しい」で会話が止まります。効くのは、家賃を上げる前提と上げない前提を分けて、それぞれの回収年数を並べて見せることです。

結論を一つに絞って押し付けるより、シナリオを複数出して選んでもらうほうが決まりやすくなります。提案書は結論の押し付けではなく、判断材料の提示だと考えてください。

私が他社と意見が違う点 — 「省エネ改修はオーナー利益にならない」論への反論

業界の一部で根強いのが「省エネ改修は工事費の回収に20年以上かかり、オーナー利益にならない」という主張。私はこれに反対する。理由は3つ。

(理由1)単純回収年数だけで判断するのは片面的。空室期間の短縮・家賃下落の防止・修繕費の削減を合算した「実質回収」で評価すべき。自社の事例では単純22年が実質12〜14年に短縮された。(理由2)2030年以降、新築供給が省エネ標準化された世界で、既存非省エネ物件は相対的に競争力を失う。今のうちに改修した方が、2030〜2035年の家賃下落リスクから解放される。(理由3)補助金活用で実質負担は7〜8割に圧縮できる。神奈川県内では複数制度の併用で最大3割引きが可能なケースが多い。

受託につながりやすいのは、改修した場合の効果より、改修しなかった場合に何が起きるかを示したときです。設備の更新時期、将来の家賃下落、募集時の競合との差。この3点を数字で並べてください。

STEP 1
入居受付
月 4-6h / 物件
STEP 2
契約締結
月 6-8h / 物件
STEP 3
入金管理
月 8-10h / 物件
STEP 4
送金管理
月 6-8h / 物件
STEP 5
更新提案
月 3-5h / 物件
STEP 6
退去精算
月 5-7h / 物件
合計 月32-44時間 / 物件 — 6ステージが密に連動する賃貸管理業務。各ステップ間の情報連携の遅れがオーナー流出と滞納増の起点になる。
賃貸管理の典型的な6ステップ業務サイクル。各ステージが密に連動するため、情報の一元管理で全体最適を取ることが業務効率化の核心。月間の業務時間目安は小規模物件管理会社の実績値に基づく。

オーナー提案の関連記事 — あわせて読みたい

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高齢オーナーに段階的に提案する場合

一度に全面改修を提案しても判断が止まる場合は、断熱・給湯・照明のように工事を分けて、優先順位と概算を段階で示す方法があります。補助金の申請期間に合わせて年度をまたぐ計画にすることもできます。

段階提案では、途中でやめても無駄にならない順序(設備更新を先、外皮工事を後)で組むのが基本です。

提案が通らないときに多い原因

提案が通らない典型は、工事の内容から書き始めてしまい、オーナーが最初に知りたい「いくらかかって、いつ戻るのか」に最後までたどり着かないケースです。もう一つは、補助金を前提に回収年数を出しておきながら、採択されなかった場合の数字を用意していないケースです。

結論とお金の話を先に置き、補助金なしの数字も併記してください。

2026年下半期の見通し — 補助金枠と工務店繁忙

2026年5月時点の業界感覚として、下半期は2つの「混雑」が予想される。(1) 補助金枠の早期消化(=断熱リフォーム支援事業は例年7〜8月に締切前申請ラッシュ)。(2) 工務店の繁忙(=4月施行直後の駆け込み需要で、9月以降の工期確保が困難になる可能性)。

中規模オーナーへの提案は、できれば5〜6月に決裁・契約まで進め、7月までに補助金申請、9月着工のスケジュールが理想。これを過ぎると、補助金枠と工務店枠の両方で順番待ちが発生する。当社では、2026年4〜5月に提案中の案件を優先的に進める方針で動いている。

オーナー提案のよくある質問 FAQ|実務で押さえるべきポイント

Q1. 築40年超の木造アパートでも省エネ改修は意味がありますか?

窓の改修は、外皮全体の工事に比べて費用が小さく、募集時の訴求にも使えます。断熱等級や窓の仕様は募集図面に書けるので、同じ家賃帯の競合との差になります。

Q2. 投資回収20年は長すぎませんか?

単純回収は20年前後ですが、空室期間短縮・家賃下落防止・修繕費削減を加味した実質回収は12〜15年が現実的です。さらに2030年以降の市場では、非省エネ物件の家賃下落が加速する見込みのため、改修しない場合の機会損失も提案書で評価すべきです。

Q3. オーナーへの提案書は何枚構成が適切ですか?

A4で12〜16枚が現場経験上の最適解。8枚以下では情報不足、20枚超では読まれません。3シナリオ(保守・中立・楽観)を並記し、オーナー自身に選択肢を提示する構成が、決裁スピードを上げます。

Q4. 補助金は必ず採択されますか?

保証はありません。2026年5月時点で、既存住宅断熱改修支援事業の採択率は申請の約7割という非公式情報があります。提案書には「採択前提」「不採択前提」の2シナリオを並記し、不採択でも改修を進める判断材料を提供してください。

Q5. 入居中物件で工事を進める際、家賃減額は必須ですか?

法的義務ではありませんが、当社では1日工事1日分日割減額+商品券2,000円を標準化しています。費用は1室あたり約4,000円。クレーム抑止と入居継続意欲の維持に直結する投資と考えています。

Q6. 自社で省エネ計算を内製化すべきですか?

年間5件以下なら外注、5件超なら内製を検討します。外注費は1棟8〜15万円(首都圏相場)。内製化には専任スタッフと初年度の習熟期間が必要です。当社は年15件見込みでも外注継続中、件数30件超で内製化を再検討する方針です。

営業現場での提案タイミング — オーナーの判断モードを読む

提案書を作っても、出すタイミングを誤れば受託に至らない。私が現場で観察してきた中規模オーナーには、判断モードに3パターンある。(A) 大規模修繕の見積りを取り始めた直後=最も提案が刺さる時期。(B) 確定申告直後(3月)=資金繰りを意識し、設備投資の判断を先送りしやすい時期。(C) 入退去が落ち着いた閑散期(11〜1月)=長期視点で提案を検討してくれる時期。

外壁修繕の見積もりを取り始めた直後は、オーナーが工事の話を受け入れやすい時期です。この時期に当たると、省エネ改修を単独の投資ではなく、修繕にあわせた上乗せとして検討してもらえます。

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オーナー満足度を高める提案要素

提案要素頻度満足度寄与
月次レポート毎月★★★★★
能動提案四半期1回★★★★
投資ポートフォリオ分析年1回★★★★★

よくある質問 FAQ|実務の疑問に答える

本記事の論点に関連する、現場でよく寄せられる質問への回答をまとめました。

Q1. オーナー提案で信頼を得るための最重要要素は何ですか?
A. 透明性 (手数料・原価開示) と再現性 (毎回同じフォーマットで提案) です。提案資料の標準化が信頼構築の第一歩になります。
Q2. 提案頻度はどれくらいが理想ですか?
A. 月次レポート + 四半期1回の能動提案 (相場見直し・修繕計画・税対策) のリズムが、満足度と継続率を最大化します。
Q3. オーナー満足度はどう測定すべきですか?
A. NPS (Net Promoter Score) を年2回計測するのが標準。「他社に紹介したいか」を10点満点で問い、9-10点を推奨者として運用改善のフィードバックに活用します。
Q4. VIP オーナー (大口) への対応はどう差別化しますか?
A. 専任チーム配置・優先ルート・月1面談・先制的な投資提案 (ポートフォリオ分析含む) で対応すると、紹介倍増・流出ゼロを実現できます。
Q5. 提案資料の作成時間を短縮するには?
A. 顧客属性別 (小規模/中規模/法人/売却検討中) に5-7パターンのテンプレを用意し、データ流し込みで自動生成する仕組みで、作成時間を 1/3 〜 1/5 に短縮できます。
現場メモ|よくある失敗と対処
実務で繰り返し起きる失敗と、その対処
▸ よくある失敗

Excelで入居者・契約・更新・修繕を別ファイル管理していた。更新時期が来た入居者の修繕履歴を確認するのに、3ファイルを開いて該当行を探す作業で1件あたり10分かかっていた。月20件の更新案件で月3.3時間、年40時間が「ファイルを開く」だけに溶けていた。

▸ そこから得た学び

賃貸管理の業務時間の半分以上は「情報を探す」時間。一元管理の本当の価値はデータの正確性ではなく、検索時間の短縮による意思決定スピードの改善。

▸ 今やるべきこと

入居者・契約・修繕・更新を1画面で見える化する仕組みを最優先で整える。Excelでも構わないが、最低限「入居者ID」で関連情報がワンクリックで紐づく状態を作る。

本欄は特定の実体験ではなく、賃貸管理・仲介の実務で繰り返し起きる典型的な失敗と、その対処を一般的な形で整理したものです。

同じテーマで深掘りしたい場合や、関連する論点を整理する際にお読みください。

出典・参考資料

本記事の数字は、筆者が自社で保有する物件と、伴走した管理会社の記録に基づく実務値です。公的統計を引用した箇所には、その都度本文中に出典を示しています。

よくある質問

Q. 賃貸管理を効率化したい場合、何から始めればよいですか?
賃貸管理の効率化は、まず現在の業務フローを可視化することから始まります。多くの企業が手作業で行っている「家賃徴収管理」「原状回復の報告」「クレーム対応」などの業務を整理し、どこにボトルネックがあるか確認しましょう。その上で、SaaS ツールの導入や自動化を検討することが、実質的な人件費削減につながります。
Q. SaaS ツールで賃貸管理業務は本当に削減できるのか?
はい、適切に導入すれば 1 人当たり月 20~30 時間の削減が可能です。特に「家賃管理」「滞納催促」「報告書自動生成」の 3 つの業務を SaaS で自動化すると、効果が大きいです。ただし導入直後は操作習得に時間がかかるため、初期 2~3 ヶ月は余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。
Q. 家賃滞納への対応を効率化する方法は?
賃貸管理SaaS の滞納管理機能を使うと、「滞納日数」「過去滞納回数」「催促状況」がダッシュボード表示され、対応優先度が自動で判定されます。これにより、営業スタッフが感覚で判断していた部分が 数値化 され、法的対応に移行するタイミングも明確になります。結果として、滞納期間の短縮化と回収率向上が期待できます。