契約書や書式のバージョン管理は、「使ってよい版を1つに決める」「古い版は使えない場所に移す」「いつ何をなぜ変えたかを記録する」の3点を決めれば回り始めます。あわせて、交わし終えた契約書は雛形とは別のルールで保存します。電子契約で交わした契約書は電子帳簿保存法の「電子取引」に当たり、宅建業法49条の帳簿は閉鎖後5年間(自ら売主の新築住宅は10年間)の保存が必要です。この記事では、中小の不動産会社がすぐに始められる版管理のルールと、保存義務との関係を説明します。
不動産会社に版管理が必要な理由
不動産取引で使う書式は、法令や国の標準書式の改正に合わせて変わります。最近の例だけでも、次のような改正がありました。
- 民法の改正(2020年4月1日施行)で「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わり、国土交通省は2018年3月に賃貸住宅標準契約書などを改定しました。
- デジタル改革に合わせた法改正(2022年5月18日施行)で、媒介契約書や重要事項説明書、37条書面、定期借家の事前説明書を電磁的方法で提供できるようになり、標準媒介契約約款も改正されました(国土交通省告示第539号)。
- 標準媒介契約約款は、国交省のページで「令和6年4月1日以降」の版が掲載されています。
古い版の書式を使い続けると、現在の法令と合わない条文で契約を結ぶことになります。たとえば、宅地建物取引業法施行規則15条の9第4号は、媒介契約書に「標準媒介契約約款に基づくものかどうか」を書くよう求めています。古い版の約款を使いながら「基づく」と書くと、表示と中身が食い違います。版管理は、こうした食い違いを防ぐための仕組みです。
「雛形」と「交わした契約書」を分けて考える
版管理で最初に決めたいのは、2つのものを分けて扱うことです。
| 区分 | 例 | 管理の目的 | 主に関係するルール |
|---|---|---|---|
| 雛形(書式の原本) | 売買契約書、賃貸借契約書、媒介契約書、重要事項説明書、事前説明書の空欄の書式 | 常に正しい版だけが使われるようにする | 社内の版管理ルール |
| 交わした契約書 | 署名・記名押印や電子署名が済んだ個別の契約書 | あとから変わらない形で、決められた期間残す | 宅建業法の帳簿、法人税法の保存期間、電子帳簿保存法 |
雛形は「新しくする」のが仕事で、交わした契約書は「変えずに残す」のが仕事です。この2つを同じフォルダに置くと、雛形を探すときに過去の契約書が混ざり、反対に、交わした契約書を誤って上書きするおそれも出ます。保存場所の段階で分けておくのが確実です。
雛形の版管理のルールの例
ここからは、特別なシステムがなくても始められるルールの例です。法令で決まっているものではないので、自社の規模に合わせて調整してください。
版番号と適用開始日を書式の中に入れる
ファイル名だけでなく、書式の本文(フッターなど)に「版番号」と「適用開始日」を入れます。印刷した紙や、相手に送ったPDFからでも、どの版かが分かるようにするためです。版番号は「大きな改正で整数を上げ、文言の修正で小数を上げる」といった決め方にしておくと、変更の大きさが分かります。
「現行」の置き場所を1か所にする
使ってよい版は「現行」フォルダに1つだけ置きます。同じ書式の版が2つ並んでいる状態をつくらないことが大切です。担当者がパソコンのデスクトップやメールの添付から書式を使うと、置き場所を決めた意味がなくなるので、「書式は現行フォルダから毎回開く」という決まりもあわせて伝えます。
古い版は「廃止」フォルダに移し、消さない
新しい版を出したら、古い版は「廃止」フォルダに移し、読み取り専用にします。消さないのは、過去の契約がどの版で結ばれたかを確かめるときに必要になるためです。廃止フォルダのファイル名には「廃止」と廃止日を入れておくと、検索で出てきても使われにくくなります。
変更の記録を1か所にまとめる
書式ごとに、次のような変更記録を残します。
| 記録する項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 書式名と版番号 | 売買契約書(一般売主用)第3.1版 |
| 適用開始日 | この版を使い始める日 |
| 変更した箇所 | 条番号と、変更前・変更後の文言 |
| 変更の理由・根拠 | 法令の条番号、国交省の資料名、社内で起きた問題など |
| 確認した人 | 宅建士、必要に応じて弁護士などの専門家 |
| 周知の方法 | 朝礼、社内チャット、メールなど |
「理由・根拠」の欄は特に大切です。数年後に条文の意味を確かめたいとき、なぜその文言にしたかが分からないと、元に戻してよいかどうかも判断できません。
承認する人を決める
雛形を変えられる人と、変更を承認する人を決めておきます。少人数の会社でも、作った人とは別の人が見る形にしておくと、条番号のずれや欄の書き漏らしに気づきやすくなります。37条書面や重要事項説明書のように宅建士の記名が必要な書式は、宅建士が確認する流れにします。
見直しのきっかけになる公的な情報
雛形を見直すきっかけは、定期点検よりも「改正の情報が出たとき」のほうが確実です。次の公的なページを、担当者を決めて確認する形が考えられます。
- e-Gov法令検索:宅地建物取引業法、同施行規則、借地借家法、民法などの現行の条文。
- 国土交通省「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方と、その改正の新旧対照。
- 国土交通省「宅地建物取引業法関係」:標準媒介契約約款など。
- 国土交通省の賃貸住宅標準契約書・定期賃貸住宅標準契約書のページ:賃貸の標準書式。
- 国税庁の電子帳簿保存法のページ:電子取引データの保存の取扱い。
- 所属する業界団体からの通知:国交省から業界団体あてに出される通知の案内など。
改正の情報を見つけたら、影響する書式を変更記録の一覧から探し、適用開始日を決めて新しい版を作ります。法令の施行日と、社内で新しい版を使い始める日がずれないよう、施行日の前に準備を終える計画にしておきます。
宅建業法の帳簿と契約書の控え
宅地建物取引業法49条は、宅建業者に、事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど、年月日、宅地・建物の所在と面積などを記載するよう求めています。記載事項は施行規則18条1項に定められ、取引の態様、相手方の氏名・住所、関与したほかの業者、物件の概況、売買金額や賃料、報酬の額、取引に関する特約その他参考となる事項などが含まれます。
帳簿は各事業年度の末日で閉鎖し、閉鎖後5年間(宅建業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)保存しなければなりません(施行規則18条3項)。帳簿の事項をパソコンのファイルなどに記録し、必要に応じて事務所で紙に表示できるときは、その記録で帳簿に代えられます(同条2項)。
帳簿には「取引に関する特約」を書くことになっているので、根拠となる契約書の控えを帳簿と同じ期間以上残しておくと、照合がしやすくなります。どの版の雛形で結んだ契約かも、控えから分かるようにしておくと役に立ちます。
税務の面では、法人は帳簿書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があり、青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年間になります(国税庁タックスアンサーNo.5930)。契約書は取引に関する書類に当たるので、宅建業法の期間と税務の期間のうち長いほうに合わせて保存期間を決めると管理が単純になります。
電子帳簿保存法の電子取引データの保存
「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法)7条は、所得税・法人税の保存義務者が電子取引を行ったときは、その取引情報の電磁的記録を保存しなければならないと定めています。国税庁の一問一答では、電子取引の取引情報として、注文書、契約書、送り状、領収書、見積書などに通常記載される事項が挙げられています。電子契約のサービスで交わした売買契約書や賃貸借契約書、メールで受け取ったPDFの契約書も対象になります。
国税庁の資料「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」では、電子取引データの保存について、次の考え方が示されています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 改ざんの防止 | タイムスタンプ、訂正・削除の記録が残るシステムの利用、または「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程」を定めて守る、などの措置をとる。 |
| 検索できるようにする | 「日付・金額・取引先」で検索できるようにする。 |
| 見られるようにする | ディスプレイやプリンタ等を備え付ける。 |
検索の要件については、2課税年度前の売上高が5,000万円以下の場合や、電子取引データを印刷して日付と取引先ごとに整理している場合は、税務職員による電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じられるようにしていれば不要とされています。また、一定のルールに従った保存ができなかったことに所轄税務署長が相当の理由があると認め、ダウンロードの求めと、印刷した書面の提示・提出の求めに応じられる場合の猶予措置も示されています。
版管理のルールと同じ考え方で整える
国税庁の一問一答では、検索のしかたとして、ファイル名に規則性をもって内容を表示する方法や、索引簿を作って検索する方法が示されています。たとえば交わした契約書のファイル名を「取引年月日_取引先_金額」の順にそろえ、別に一覧表を作る方法です。雛形の版管理で決めた「名前の付け方を決めて守る」「置き場所を分ける」という考え方は、ここでもそのまま使えます。
事務処理規程で改ざん防止に対応する場合は、国税庁が電子帳簿保存法のQ&Aで規程の例を示しています。誰が訂正・削除を認めるか、記録をどう残すかを決める点は、雛形の変更を承認する流れと同じ形にできます。
版と保存を1つの台帳で結ぶ
雛形の版管理と、交わした契約書の保存は、1つの台帳でつなぐと確認がしやすくなります。次は台帳の列の例です。
| 列 | 使いみち |
|---|---|
| 契約日(取引年月日) | 電子取引データの検索、帳簿との照合 |
| 取引先(当事者) | 電子取引データの検索 |
| 金額(代金・賃料) | 電子取引データの検索、帳簿との照合 |
| 書式名と版番号 | どの版で結んだかの確認。改正前の版で結んだ契約の洗い出し |
| 書面か電子か | 保存方法の区別(紙の原本か、電子取引データか) |
| 保存場所 | 原本・データのある場所 |
| 保存期限 | 宅建業法の帳簿と税務の保存期間のうち長いほうから決める |
「書式名と版番号」の列があると、ある条文に問題が見つかったときに、その版で結んだ契約だけを抜き出して確認できます。版管理は、新しい契約を正しくするだけでなく、過去の契約を点検するための手がかりにもなります。
ウルスタくんでは、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類の作成と電子サインを扱っています。書類を作る場所と交わした書類を残す場所が同じだと、ここで説明した「どの書式で作り、いつ交わしたか」を追いやすくなります。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 版管理のために専用のシステムは必要ですか?
必須ではありません。共有フォルダでも、「現行」と「廃止」のフォルダを分け、版番号と変更記録を残せば始められます。大切なのは、使ってよい版が1つに決まっていることと、その決まりを全員が知っていることです。
Q2. 電子契約で交わした契約書を印刷して保存すれば足りますか?
電子帳簿保存法7条により、電子取引の取引情報は電磁的記録のまま保存する必要があります。印刷した書面だけを残す方法は、国税庁の資料が示す猶予措置などに当たる場合を除き、原則の保存方法にはなりません。
Q3. 古い版の雛形は、いつ消してよいですか?
法令で決まった期限はありませんが、その版で結んだ契約書を保存している間は、版の原本も残しておくのが安全です。交わした契約書の保存期限に合わせて判断してください。
Q4. 雛形を変えたら、過去の契約も直す必要がありますか?
雛形の変更は、これから結ぶ契約に使う書式を変えるもので、交わした契約の内容が自動で変わるわけではありません。過去の契約で対応が必要な点があるかは、台帳で該当する版の契約を抜き出し、個別に確認します。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第37条・第49条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9・第18条)
- e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(第7条)
- 国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」
- 国税庁「電子帳簿保存法Q&A Ⅱ 適用要件【基本的事項】」
- 国税庁タックスアンサー No.5930「帳簿書類等の保存期間」
- 国土交通省「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」
- 国土交通省告示第539号(令和4年4月27日、標準媒介契約約款の改正)
- 国土交通省「民法改正等を踏まえ『賃貸住宅標準契約書』等を改定しました」(平成30年3月30日)
- 法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。