最終更新: 2026年5月16日
2025年10月。当社の2025年9月期決算が確定し、私 (馬場生悦) は5大経営指標を業界平均と比較する作業を行いました。自社オフィスで、過去5年分の自社データと、日管協 (公益財団法人日本賃貸住宅管理協会) や全国賃貸住宅新聞の業界調査データを並べての分析。結果、5指標すべてで業界平均を上回る成績。本稿では、この5指標の定義・計測方法・改善打ち手を、自社実数値と共に全公開します。
不動産業務の指標1 — 入居率|実務で押さえるべきポイント
入居率 = (入居戸数 ÷ 管理総戸数) × 100。最も基本かつ最も誤解されやすい指標です。当社の2025年9月期実績は96.8%、業界平均は(公財)日本賃貸住宅管理協会の「日管協短観」を参照。
計算式は2種類あり、混同に気を付けるべき項目。月末入居率 (月末時点の入居戸数で計算) と、月平均入居率 (月内の延べ入居日数で計算)。当社は月平均入居率を採用。月末入居率は退去・入居のタイミングで数値が大きく変動するため、経営判断には月平均が適切です。
当社の物件別内訳: RCマンション (32戸) で入居率98.4%、木造アパート群 (合計48戸) で97.1%、木造アパート群 (合計58戸) で95.2%、その他小規模物件 (合計62戸) で94.5%。築年と立地に応じた階層化。
入居率を上げる打ち手として当社が取っているのは、1) 退去予告から募集開始までを48時間以内に完了 (PMシステムから即時SUUMOへ連動)、2) マイソク (年間1,200枚作成) を物件ごとに季節調整、3) 春繁忙期前の1月から先行募集枠を設定。
不動産業務の指標2 — 滞納率|実務で押さえるべきポイント
滞納率 = (滞納金額 ÷ 月家賃合計) × 100、または滞納戸数比。業界平均は金額ベース2.5%前後 (日管協・全国賃貸住宅新聞調査)。
滞納率を下げる打ち手として当社が取っているのは、1) 入居時の家賃保証会社加入100%義務化 (2022年から)、2) 当月滞納が出たら3日以内に督促電話、3) 2ヶ月滞納で内容証明、3ヶ月滞納で訴訟準備。当社の年間滞納処理件数は約8件、うち訴訟まで至るのは年1-2件。
保証会社の選択も重要です。当社はCasa を主軸に、サブで日本セーフティー・全保連を併用。保証範囲・初期費用・代位弁済スピードの3点を比較し、入居者属性に応じて使い分けています。詳細は別記事 (rent-guarantee-company-selection-2026) を参照。
不動産業務の指標3 — 原状回復原価率|実務で押さえるべきポイント
原状回復原価率 = (原状回復工事原価 ÷ 工事請求額) × 100。退去立会で発生する工事の利益率を測る指標。同業平均は明確データが少ないですが、私のヒアリングでは70-75%が一般的 (=粗利25-30%)。
原価率を下げる (粗利を上げる) 鍵は、協力業者との価格交渉と工事内容の見直し。当社の主要協力業者は、クロス張替えのA社、CF張替えのB社、ハウスクリーニングのC社の3社。すべて10年以上の取引で単価交渉済み。例えばクロス張替えはm単価850円 (一般相場950-1,100円)。
原価率を測るには、退去物件ごとに「請求額」と「原価」を分離記録する習慣が必要。当社は退去立会終了後24時間以内に、原状回復工事の請求額と協力業者見積額をPMシステムに入力。月次で原価率レポートが出ます。
不動産業務の指標4 — 管理戸数あたり粗利
当社が高い理由は、1) 管理手数料が家賃の5% (業界平均4-5%) を維持、2) 原状回復工事の粗利35% (前項)、3) 更新事務手数料、退去立会立合料、入居者紹介手数料など副次収入の積上げ。
1戸あたり粗利を上げる施策で2025年に効いたのは、退去立会時の小修繕クロスセル。エアコンクリーニング、給湯器交換予防点検など、退去のタイミングで提案。年間で約120万円の追加売上を生み、1戸あたり粗利を約6,000円押し上げました。
ウルスタ — 賃貸管理会社の経営指標を可視化
5大指標の月次トラッキング、業界平均との比較ダッシュボード、改善施策の打ち手提示。近隣の管理会社40社の経営改善実績を持つ宅建士・馬場生悦が貴社のKPI体制を構築支援します。
不動産業務の指標5 — 社員1人あたり管理戸数
社員1人あたり管理戸数 = 管理総戸数 ÷ (営業+管理スタッフ人数、内勤・経理は0.5換算)。業界平均は40室前後 (中堅管理会社向けヒアリングベース)。
1人あたり戸数が多いほど効率的、と単純に言えるわけではありません。多すぎると入居者対応の質が落ち、クレーム多発・滞納増加につながる。少なすぎると人件費負担が重い。業界の感覚としては40-60室が「適正範囲」。
当社が50室/人を維持できている理由は、1) PMシステムによる業務自動化 (家賃送金、契約更新通知)、2) 協力業者ネットワーク (修繕は外部委託、自社で抱えない)、3) IT重説・電子契約による業務時間短縮、4) リモートワーク導入による生産性向上 (別記事参照)。
現場メモ — 指標を一つに絞ると起きること
入居率だけを最重要指標に置くと、家賃を下げて埋める方向に力が働きます。入居率は改善しますが、管理手数料は家賃に比例するため収入が減り、低い家賃で集めた層の滞納対応コストが増えることがあります。
入居率は「下限」として設定し、家賃水準は周辺相場の中央付近を維持する。空室が長引く部屋は値下げではなく設備・内装の更新で価値を上げる。指標は必ず二つ以上を組にして見てください。
不動産業務の指標を測るためのデータ基盤|実務で押さえるべきポイント
5指標を毎月測るには、PMシステム + 会計ソフト + Excel集計の3点セット。当社は、PMシステム (賃貸管理ソフト) でリアルタイムの入居率・滞納率を把握、freee会計で粗利を集計、月次でExcelに5指標を集約。所要時間は月1.5時間。
同業他社で「指標を測りたいが時間がない」という相談を受けますが、ほとんどの場合PMシステムにデータがあるのに集計関数を組んでいないだけ。Excelの SUMIFS や VLOOKUP が組めれば、初期設定3時間 + 月次1時間で5指標は出せます。
不動産業務の業界平均データの入手先|実務で押さえるべきポイント
業界平均データの主要ソースは3つ。1) 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 (日管協) の調査レポート、年1回発表、無料。2) 全国賃貸住宅新聞の年次特集、購読料は公式サイト参照。3) リクルート住まいカンパニーのSUUMO賃貸経営サポート、無料セミナーで一部数値開示。
注意点として、業界平均は規模感によって大きく異なります。管理戸数1,000室以上の大手と、当社のような210室の中小では指標の意味が違う。比較するなら同規模 (100-500室規模) のデータを参照すべき。日管協レポートには規模別データが含まれます。
不動産業務の私が他社と意見が違う点 — 「入居率99%目標」論への反論
業界誌や同業セミナーで「入居率99%を目指せ」という主張をよく聞きます。私はこれに反対です。
入居率99%を狙うと、家賃を相場以下に下げる、入居審査を緩める、契約条件を譲歩する、といった行動を取ることになります。短期的には数字が上がりますが、長期的には粗利低下・滞納増加・トラブル多発のリスク。
当社の目標値は入居率95-97%。空室があってもいいから、家賃水準・入居者質・契約条件のバランスを取ったほうが結果的に粗利は厚くなる、という考え。100点を狙わず85点を確実に積む経営観です。賃貸管理は短期勝負ではなく10年20年の長期事業。99%を求める運用はサステナブルではありません。
- 物件管理35%
- 入金管理20%
- 顧客対応20%
- オーナー対応15%
- 営業活動10%
再配分
- 物件管理10%
- 入金管理5%
- 顧客対応35%
- オーナー対応10%
- 営業活動40%
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不動産業務のよくある質問 FAQ|実務で押さえるべきポイント
Q1. 入居率の計算は月末ベースと月平均ベース、どちらが正しいですか?
A. 経営判断には月平均ベースが適切です。月末ベースは退去・入居タイミングで変動が大きく、トレンドが見えにくい。当社は月平均ベースを採用しています。
Q2. 滞納率の業界平均は2.5%とのことですが、達成すべき水準は?
A. 2%未満が中堅以上の優良ライン。1%未満はかなり優秀。当社の1.2%は保証会社100%義務化と早期督促体制の成果です。
Q3. 原状回復原価率を下げる最も効く打ち手は?
A. 協力業者の単価交渉と固定化。10年以上付き合う業者を育てる。スポット業者を使うと毎回相場価格になり原価率が下がりません。
Q4. 社員1人あたり管理戸数を増やすには?
A. PMシステムによる業務自動化が最大の打ち手。次に外部業者ネットワーク (修繕・清掃) の活用、3番目にIT重説・電子契約の導入。
Q5. 業界平均データはどこで入手できますか?
A. 日管協の年次調査レポート (無料)、全国賃貸住宅新聞の特集記事、SUUMO賃貸経営サポートのセミナー資料。同規模 (100-500室) のデータを参照すべきです。
不動産業務の利益相反開示 — 馬場生悦 = ウルスタ 創業者
本記事の著者・馬場生悦は不動産管理SaaS「ウルスタ」の創業者です。記事中段にウルスタへの誘導CTAを掲載しています。記事内で言及した自社実数値は2025年9月期の決算データに基づくもの。業界平均データは日管協・全国賃貸住宅新聞等の公開情報を参照しています。自社で210室を保有・管理する宅建士の実体験に基づく記述です。
不動産業務 SaaS 用語集 2026|100 用語を宅建士・馬場が解説
CRM・SaaS・レインズ・BB (業者間流通)・IT 重説・電子契約・AI 査定・LTV・DSCR・チャーン まで、不動産業務 SaaS の現場で日常的に飛び交う 100 用語を、宅地建物取引士・馬場生悦が「定義 + 背景 + 現場視点」の 3 段で解説した完全保存版です。
DX 投資の効果 早見表
| 投資領域 | 月額投資 | 時間削減 |
|---|---|---|
| 経費精算自動化 | 5,000-15,000円 | 月8時間 |
| 電子契約 | 10,000円 | 案件あたり15分 |
| CRM導入 | 30,000-100,000円 | 月20-40時間 |
よくある質問 FAQ|実務の疑問に答える
本記事の論点に関連する、現場でよく寄せられる質問への回答をまとめました。
Excel 管理から SaaS への移行でいちばん多い失敗が、「全部を一度に切り替える」やり方だ。切替直後は現場から「Excel のほうが早い」「新しい画面が分からない」「データが見つからない」という声が集中し、数か月で元の Excel 運用に戻ってしまう。残るのは移行にかけた時間と、現場の徒労感だけになる。
業務改善の失敗の9割は「全部一気に切り替える」ことが原因。現場は「現状の業務」と「新しい業務」を同時に覚えることに耐えられない。
SaaS導入は「1機能ずつ」「1部署ずつ」段階的に切り替える。最初の3ヶ月は旧Excelと並行運用し、新システムが業務効率を上回ったタイミングで旧Excelを廃止する。
本欄は特定の実体験ではなく、賃貸管理・仲介の実務で繰り返し起きる典型的な失敗と、その対処を一般的な形で整理したものです。
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出典・参考資料
本記事の数字は、筆者が自社で保有する物件と、伴走した管理会社の記録に基づく実務値です。公的統計を引用した箇所には、その都度本文中に出典を示しています。

