ツール比較・選び方 読了 13分

賃貸管理・不動産会社の経営指標ベンチマーク|業界平均と比べる公的統計の使い方と手順

同業比較は、出典が分かる公的統計を使い、業種・規模・定義をそろえてから行うのが基本です。法人企業統計や中小企業実態基本調査に何が載っているか、入居率など自社でしか測れない指標の扱い、比較の手順を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
賃貸管理・不動産会社の経営指標ベンチマーク|業界平均と比べる公的統計の使い方
目次

不動産会社が経営指標を同業と比べるときは、出どころが分かる公的統計を使い、業種・規模・定義をそろえてから比べるのが基本です。財務省の法人企業統計調査、中小企業庁の中小企業実態基本調査、総務省の住宅・土地統計調査が主な材料です。出典の書かれていない「業界平均」は、そのまま目標にしないほうが安全です。

「業界平均」との比較でつまずく理由

「同業と比べて自社はどうか」は、経営者なら誰でも気になる問いです。ところが、ネット上で見かける「不動産業の平均利益率は〇%」「管理会社の平均入居率は〇%」といった数字は、出典や定義が書かれていないことが少なくありません。

比較がずれる原因は、主に次の3つです。

  • 業種の範囲が違う:統計上の「不動産業」には、売買の仲介、賃貸の仲介、管理、自社での賃貸(大家業)、開発分譲などが混ざっています。仲介中心の会社と、自社物件の家賃収入が中心の会社では、利益率の形がまったく違います。
  • 規模が違う:平均値は規模の大きい会社の数字に引っ張られます。資本金や従業者数の区分をそろえないと、比べる意味が薄れます。
  • 定義が違う:入居率を月末時点で数えるか期間の平均で数えるか、滞納率を金額で見るか件数で見るかで、同じ会社でも数字が変わります。

ですから、同業比較は「どの統計の、どの表の、どの区分と比べたか」を言えることが出発点になります。

比較に使える公的データと中身

ここでは、実際に公式ページを開いて内容を確かめた資料だけを挙げます。数値そのものは年度ごとに更新されるため、この記事では転記せず、どこに何が載っているかを説明します。

法人企業統計調査(財務省 財務総合政策研究所)

営利法人の財務の実態をつかむための調査で、統計法にもとづく基幹統計調査です。2種類あります。

  • 年次別調査:1948年開始。営利法人を対象に、確定した決算の数字を集めます。結果は例年9月に公表されます。
  • 四半期別調査:1950年開始。資本金1,000万円以上の法人が対象で、仮決算の数字を集めます。3月・6月・9月・12月に公表されます。

年次別調査は、業種ごと・資本金の階層ごとに「資産」「負債及び純資産」「損益」「人件費」などの項目が集計されています。財務省の「財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)」の統計表では、不動産業と物品賃貸業が別のファイルに分かれて載っています。

また、同研究所は「法人企業統計からみえる企業の財務指標」として、売上高経常利益率、自己資本比率、労働生産性など、収益性・安全性・効率性・生産性の4分野で20の指標を公開しています。自社の決算書から同じ式で計算すれば、比べる土台ができます。

中小企業実態基本調査(中小企業庁)

中小企業の財務情報と経営情報をつかむための調査です。令和5年調査の速報(2024年3月29日公表)によると、事業所母集団データベースから無作為に選んだ約11万社を対象に、11の業種で行われ、有効回答は45,723社(有効回答率41.7%)でした。業種の1つが「不動産業、物品賃貸業」です。

調べている項目は、従業者数、売上高、利益、資産・負債・純資産、設備投資、事業承継などです。法人企業統計より中小企業に寄った集計なので、社員数名から数十名の不動産会社には、こちらのほうが比べやすいことがあります。

住宅・土地統計調査(総務省統計局)

住宅とそこに住む世帯の実態を調べる調査です。令和5年調査の基本集計は2024年9月25日に公表され、全国の空き家数は900万2千戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最多・過去最高でした。結果は全国・都道府県・市区町村の単位で見られます。

管理会社の入居率を考えるときに、自社が管理するエリアの空き家の状況を知る材料になります。ただし、この調査の「空き家」には賃貸用のほか、売却用や別荘などの二次的住宅、それ以外の空き家も含まれ、管理会社が数える「空室」と同じ定義ではありません。使うときは、統計局が出している用語の解説で区分を確かめてください。

日管協短観(日本賃貸住宅管理協会)

賃貸住宅の管理会社でつくる業界団体が行っている景況調査です。入居率など賃貸住宅市場で注目される数値を指数化して分析しています。2008年度から2020年度までは半期ごと、2021年度調査からは年1回の調査です。公的統計ではなく、会員などへの調査である点を踏まえて読みます。

不動産業ビジョン2030(国土交通省)

2019年4月24日に国土交通省が公表した、不動産業の今後のあり方の提言です。統計そのものではありませんが、開発分譲、流通、管理、賃貸、不動産投資・運用という業態ごとに役割を整理しています。自社がどの業態の集まりなのかを考えるときの目安になります。

資料作成者分かること使いどころ
法人企業統計調査財務省業種別・資本金階層別の損益、資産、人件費など利益率、自己資本比率、労働生産性の比較
中小企業実態基本調査中小企業庁中小企業の売上高、利益、従業者数、設備投資など小規模な会社どうしの比較
住宅・土地統計調査総務省統計局市区町村単位の住宅数、空き家数など管理エリアの需給の目安
日管協短観日本賃貸住宅管理協会入居率などの景況を指数化したもの賃貸管理の市場の動きの把握

比べる前にそろえること

業種:売上の中身で「近い区分」を選ぶ

まず自社の売上を、仲介手数料、管理料、自社物件の家賃、工事の売上などに分けます。家賃収入が大半なら不動産業の中でも賃貸に近い区分、手数料が大半なら仲介・管理に近い区分と比べるのが筋です。統計表の区分が粗い場合は、「この区分には業態の違う会社も含まれる」と注記して使います。

規模:資本金や従業者数の階層をそろえる

法人企業統計は資本金の階層ごとに表があります。全規模の平均と比べると、規模の大きい会社の影響を強く受けます。自社と同じ資本金階層の数字を使ってください。

期間:年度と決算期をそろえる

統計は公表まで時間がかかるため、最新の統計でも1年以上前の年度の数字になることがあります。自社の数字も同じ年度のものを並べ、年度がずれる場合はその旨を書き添えます。

定義:計算式をそろえる

経常利益、付加価値、労働生産性などは、統計ごとに定義が決まっています。財務省や中小企業庁の「用語の解説」を開き、自社の決算書から同じ式で計算します。式が違うまま並べると、差の理由を説明できません。

入居率・滞納率など自社でしか測れない指標の扱い

入居率、滞納率、管理戸数あたりの粗利、1人あたりの管理戸数といった運営の指標は、公的統計には載っていません。こうした指標は、他社の数字を探すより、自社の過去と比べる「時系列の比較」を主にしたほうが確かです。

そのために、まず社内で定義を1つに決めます。

指標決めておく定義の例ずれやすい点
入居率入居中の戸数 ÷ 管理戸数(月末時点か、月の平均かを決める)退去と入居の日付で月末の数字が動く
滞納率期日までに入金のない家賃の額 ÷ その月の請求額件数で数えるか金額で数えるか
管理戸数あたりの粗利管理部門の粗利 ÷ 期中平均の管理戸数工事の売上や更新料を含めるか
1人あたりの管理戸数管理戸数 ÷ 管理にかかわる人数兼務の人をどう数えるか

定義を決めたら、毎月同じ方法で記録し、前年同月と比べます。季節で動く指標(入居率など)は、前月より前年同月と比べたほうが傾向をつかめます。

他社の数字と比べたい場合は、業界団体の調査や公的統計で定義が書かれているものに限って使い、定義が自社と違うときは参考値として扱います。

同業比較の手順と計算例

  1. 自社の決算書から指標を計算する:売上高経常利益率、自己資本比率、従業者1人あたりの売上高など、統計と同じ式で計算します。
  2. 比べる統計表を選ぶ:法人企業統計なら業種と資本金階層、中小企業実態基本調査なら業種と規模の区分を選びます。
  3. 定義と年度を確かめる:用語の解説を読み、自社の数字と同じ定義・同じ年度か確かめます。
  4. 差を理由に分ける:差が出たら、売上の構成(仲介・管理・自社賃貸)、人件費、借入の利息など、どこから来ているかを分けて見ます。
  5. 年1回、同じ方法で更新する:統計の公表に合わせて、年1回同じ表で比べ直します。

仮の数字で計算例を示します。売上高1億円、経常利益500万円の会社なら、売上高経常利益率は500万円 ÷ 1億円 = 5%です。この5%を、法人企業統計の不動産業で自社と同じ資本金階層の値と並べます。統計の値より低ければ、次に売上原価率、人件費率、支払利息のどれが違うかを順に見ていきます。

大切なのは、比べた結果を「高い・低い」で終わらせないことです。自社物件の家賃収入が多い会社は利益率が高く出やすく、仲介や管理が中心の会社は人件費の比率が高く出やすいなど、業態の違いで説明できる差もあります。

日々の数字を集める仕組みも必要です。ウルスタくんでは、入金の記録やオーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を管理できるので、滞納の把握や管理料収入の集計の元データとして使えます。

数字を読むときの注意点

  • 標本調査であること:中小企業実態基本調査は抽出した会社への調査で、回答率も公表されています。平均値は目安であり、自社の「あるべき値」ではありません。
  • 1つの指標に絞らない:たとえば入居率だけを追うと、家賃を下げて埋める判断に傾き、管理料収入や家賃水準が下がることがあります。入居率と家賃水準、滞納の状況をあわせて見ます。
  • 出典のない数字は使わない:社内資料や営業資料で「業界平均」を使うときは、資料名・年度・表の区分を書き添えます。書けない数字は使わないほうが無難です。
  • 地域差を考える:住宅・土地統計調査で見ると、空き家の状況は市区町村ごとに違います。全国の数字と比べるより、管理エリアの数字を見たほうが判断に使えます。

筆者は宅地建物取引士で、自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。自主管理でも、入居率や滞納の定義を決めて毎月同じ方法で記録しておくと、前年との比較がしやすくなります。

よくある質問

Q1. 不動産業の「業界平均の利益率」はどこで調べられますか。

財務省の法人企業統計調査(年次別調査)に、業種別・資本金階層別の損益の数字があります。財務指標としては「法人企業統計からみえる企業の財務指標」が、売上高経常利益率などを一覧にしています。中小企業に絞るなら、中小企業庁の中小企業実態基本調査も使えます。

Q2. 管理会社の平均入居率の公的な統計はありますか。

管理会社の入居率をそのまま集計した公的統計は見当たりません。業界団体の日管協短観は入居率などを指数化した調査です。エリアの需給は、総務省の住宅・土地統計調査で市区町村ごとの空き家の状況を見る方法があります。

Q3. 統計と比べて自社の利益率が低かったら、どうすればよいですか。

まず業態と規模の区分が合っているかを確かめます。そのうえで、売上原価、人件費、支払利息など、どこで差が出ているかを分けて見ます。原因が分かれば、価格、業務の外注、借入条件など、手を打つ場所が決まります。

Q4. どのくらいの頻度で同業比較をすればよいですか。

公的統計は年1回の公表が中心なので、同業比較は年1回、決算の確定後に行うのが現実的です。入居率や滞納率などの運営の指標は、毎月、自社の前年同月と比べます。

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出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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